『のぢしゃ物語』 第七話
恐る恐る扉を開けると、部屋の主はまだ帰ってきてなかった。部屋は出て行った時と同じ、シーンと静まり返って、自分の心音がやたらと大きく聞こえる。
緊張しているのが分かる。
「……」
上着を脱いで、クローゼットにしまう。そして暗くて見えない部屋の明かりをつけた。
部屋の音素灯がついて部屋をぼんやりと照らす。やっと、一息つけた。
ぼふっとベッドの縁に腰掛けて、ヴァンに言われた事を頭の中で反芻する。首を取る。それは、殺すという事。
どうしてあの時に頷いてしまったのか分からなかった。ただ、怖くて、捨てられたくない一心だった。彼も……ジェイドも自分を捨てるかと思うと、最後に頼れるのはヴァンだけだと思ったのだ。
今頃になって思い出す。
ガイと自分の会話を盗み聞いた時に、彼は自分の嘘に騙されてくれると言った。
それは口約束だったのかもしれない。
それでも、あの時、彼の瞳は。
「おや。先に寝ていなさいと言ったはずですが?」
ノックの音もせずに気配も無く、おそらくは寝ているであろうルークに気をつかったのだろう。部屋の明かりを付けっぱなしで寝ている時もあるから、部屋の明かりが廊下に漏れていようとジェイドは必ず静かに扉を開ける。
それが今は、ビクリと心を驚かせる。見透かされているのか。
きっちりと軍服を着込んだまま、部屋にルークを見るとニッコリと微笑んで「只今帰りましたよ」と言った。
青い軍服。
ヴァン師匠の敵。
見捨てられたくない。
「なんか、寝付けなくて」
曖昧に笑って、ベッドから立ち上がる。
ジェイドは手に持っていた書類らしきものをテーブルに置くと、クローゼットに寄って、上着を脱いだ。ルークもそれを手伝う。
「おや、有難うございます」
しわがよらないように丁寧に脱がして、それをハンガーにかけた。そのままジェイドが太ももまであるブーツを脱いで一緒にクローゼットにしまった。部屋用のスリッパに履き替える。
あぁ、この軍服さえなければ自分はこんな事をしなくとも良かったのに。
どうして。
あの時に裏切られるかもしれないと思ったのだろう。
「お風呂には入りましたか?」
「ん。先に入った」
「でも体が冷えてますよ」
きゅっと抱き締められて、その体温を確かめられた。
布越しに温かい体温が伝わってくる。これは、ジェイドの体温。
自分の体温じゃない。
ヴァン師匠を苦しめる体温。自分をさらった体温。
「一緒に入りますか?」
ふふっと笑った顔が男らしくて思わず心臓が大きな音を立てる。
「露骨な誘い方」
「お互い様でしょう?」
このまま体温が体を溶かしたら、こんな事しなくても良かったのに。
結局、自分にはこれしかないのだ。
ぴちゃりとお湯が跳ねた。
息がだんだん速くなっていくのが分かる。
久し振りというのもあるせいか、体は早い興奮を迎えていた。それはジェイドも一緒らしい。余裕がなさそうに熱く唇を重ねる。
湯船が不定期に揺れて、バスタブから零れ落ちる。
突き上げてくる熱が熱い。
体がうずいて心が求めて。
そういえば、こういう感じ。忘れていた。
相手に体を預けるという事。触られる事。熱くて、気持ちよくて、本当は。
「いたい……」
思わず言葉を漏らしていた。
するとジェイドが動きを止める。
「痛いですか?」
なだめるように背中を撫でられた。
切れたのだろうかと接合部分を指でなぞられる。ギリギリまで広がったソコがピクンと萎縮する。
「ナカ……ですか?」
このままでは調べようがないと腰を引こうとするのを慌てて止めた。
「違う。大丈夫」
腰に力を入れて、引き止める。それだけでナカのものが大きくなった。ジェイドの頬が少し赤らむ。
「これ以上進むと本当に止められませんから、今の内ですよ?」
「大丈夫、だから……ふ……あんっ」
自分から腰を振った。それに合わせてジェイドもゆっくりと再び律動を始める。
痛いのは自分の心。本心を隠した、先にある心。
体を差し出せば、誰からも捨てられないと思い込んでいる自分の心。
涙が、溢れた。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
愛してるから。
「っルーク!!」
一段と深い部分を抉られた。
中に叩きつけられるような熱い飛沫を感じる期待と同時に張り詰めていた前が開放感に溢れる。この瞬間。
噛み千切るように、残っていた力を、腰に入れた。
唇を重ねて、舌を絡め取って、歯を立てた。
首に回していた手を、喉に回して、爪を立てた。
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