こちらはブログで書いたミニSS収録ページAです。



「これ、なんだよ!」
そう言ったルークの手には銀色に鈍く輝く鎖をつないだもの。
……それはルークの2本の手首を拘束した手錠、繋がれた鎖の先はジェイドの手に握られジャラリと音を立てていた。
「聞いてねぇぞ、こんなん」
「えぇ、言ってませんでしたからね」
重たい金属の、ルークから繋がるソレを軍服の青いグローブを付けた手で愛しそうに撫でた。
「……なんだよ、俺はっ」
「ルーク・フォン・ファブレ様、ですよね?」
スッと眼鏡の奥にある瞳が伏せられた。まるで何か大切な言葉を胸に反芻させるかのように、大事にするように。
その沈黙がどこか恐ろしくてルークはヒッと身体を後ろに反らした。
するとジャラリと鎖は揺れてルークが動いた分、鎖がぐいっと引かれた。
「あぁ逃げてはいけません」
ゆっくりと目を開けたジェイドが、その見えない表情に恐怖を裏付けるように、ぐっと荒々しい動きでルークの鎖を引いた。
鎖が手錠が、ルークの身体をジェイドの元へ強制的に導く。
「わっ!」
ボスンッとジェイドの胸の中に倒れ込み、その長い髪を捕まれ後ろに引かれ、無理矢理顔を上げさせられた。
「あなたはこれから私のモノになるんですよ、ルーク様?」
残酷な言葉を吐いたジェイドの表情は、笑っていた。


「あーたまりません」
読んでいた本を急にパタンッと勢い良く閉じたジェイドは、一人呟くとベッドの上でゴロゴロと日記を書いていたルークに近寄った。
「ジェイド?読み終わったの……っがっ!」
ギシィ!
盛大にベッドが軋むのと同時にルークの上に成人男性、およそ68キログラムの質量がのしかかった。
しかも身長は186センチ。
ルークよりも一回り大きい。
「な、ちょ、おもてー!」
「あールークが足りません」
ルークの上でジェイドが喋る。
胸に響いてる声が背中に振動を伝えて、何やらドキリとするが、兎に角重たい。
「ちょ、じぇーど!」
鉛のように重たく、地蔵のように動かないジェイドにルークはそのままの姿勢を5分も強要されたのだった。


一枚、また一枚、と脱がせていくと、そこに現れるのは綺麗な素肌では無かった。
新しい傷、古い傷。
幾重にも走るソレは美しいとも醜いとも取れずに、ただそこにあった。
「痛く、ないか?」
恐る恐る指先で触れた胸を上から下に大きく走る一本の線。
かなりの重傷だったのでは無いのかと。
「えぇ。随分古い傷ですし、大丈夫ですよ」
刺し傷、薙ぎ払われた傷、致命傷であろうものまで、その身体に刻まれた戦いの印をルークは一つ一つ丁寧に辿った。
「怖くなかったか?」
「仕事ですから」
背中には、一際大きな傷があった。
それを触る。
「これも、すごくでかい傷だ」
「あぁ、それは……」
そう言いかけてジェイドは黙ってしまう。
「これは?」
ルークが続きを促した。
「……とある戦いで、敵の大将から直接頂いた傷です」
詠唱の途中だったもので、と笑うジェイドにルークはピンっとくる。
軍人、戦、大将。
それは……。
「ごめんな」
「いいえ。大丈夫ですよ」
その傷に、ルークはそっと唇を寄せた。


眩しいシャンデリアの下にたった一人ぼっち。
震える足を精一杯に伸ばした。
目の前にいるのはこの国で一番偉い人間……皇帝だ。
真っ直ぐな眼差しが怖い。
全てを見抜かれているよう。
「そなたが、ルーク姫か」
「お初にお目にかかります、ピオニー様」
笑え!
自分に言い聞かせて顔をゆっくりと上げた。
虹を作り出している滝の逆光で上手く顔が見えないが、これが自分のターゲット。
「キムラスカより、傍にお仕えする為に参りました。ルークです」
また頭を下げた。
この国で上手くやっていかなければ。
「ふむ、どうだ、ジェイド」
「陛下が気に入ったのでしたら、遠慮なく受け取るのが良いかと存じます」
包み隠さず交わされる会話。
「キムラスカもあなたのような麗人を寄越すなんて太っ腹ですね」
「言うなジェイド。ルーク姫の御前だぞ」
「失礼」
コホンと咳払い一つで済ませるのは皇帝の懐刀と名高い死霊使いだろう。
この男には注意しないといけない。
そう教わった。
「ようこそ、ルーク姫。そなたをマルクトは歓迎する」
腕を広げる皇帝。
この国で、上手くやっていかなくては。
私には生きる場所がない。


毎夜の呼ばれるピオニーの私室は、正直しんどいが正体をばらされては困る。
生きたい。
アッシュの分も生きなければと思う。
暗い廊下が蝋燭の灯かりで照らし出される。
あぁもうすぐ私室だ。
そう思い、手をノブに差し出した瞬間。
「む、ぐぅ!」
ぐいっと強い力が自分を後ろに引いて、その唇を奪った。
舌が触れ合い、唾液が…交じる。
「んっ!」
強い力で抵抗しようにも、その男の……ジェイドの力は女性であるルークの力よりも遥かに強い。
「ふ、あ……」
力が抜けて、身を任せる。
混じりあった唾液がルークのあごを伝う。
「……あなたと私なら、子どもが作れるんじゃないですか?」