こちらはブログで書いたミニSS収録ページです。



「甘い……」

甘い甘い、だけど少しだけ酸っぱいマーマレードの様な。満たされた生活の約束。
そんな事、考えた事も無くて。
「返事は、いただけないのですか?」
伏し目がちに聞いてきたジェイドに即答が出来なかった。
約束も出来ない未来なのに。
約束していない未来なのに。
「今は、いえない……ごめん」
ずっと一緒にいたい。
そう言えない自分がつらい。
なんとも言えない態度を取るルークにジェイドがふっと、笑みを作ってルークの頬を撫でた。
「済みませんねぇ。年寄りの気が早くて」
おどけてみせるジェイドを見ているのがつらい。
優しいジェイド。
彼に確かなものを与えられない。
「ジェイド。俺さ」
精一杯の誠意を見せたい。
これ以上、ジェイド以外を愛する事なんて出来ないから。
「はい?」
その整った顔立ちも、サラサラの髪も、紅い目も、薄い唇も。
この幼い顔立ちで、赤い髪で、緑の目で、少しだけぽってりした唇で。
全身全霊で。
「ずっと、好きでいるから」
どこにいても、どんな形になっても。それだけは変わらない約束で、この胸の誓い。
「だから、全部終わるまで待ってて」
少し、驚いた様子で、頬をさする手が止まった。その手に唇を落す。
ジェイドの手に頬をすりよせて、息だけでつぶやいた。
ずっと、愛してる。
「……どうやら、気が早いのは年寄りだけじゃないようですね」
ふっと肩をすくめて、硬直から立ち直ったジェイドが、ルークを抱き締めた。
ん?と顔を上げるとジェイドのアゴがあった。チュっと唇を寄せるとぐりぐりとアゴで攻撃される。
「痛い〜」
「30超えたオジサンを虐めた罰です」
永遠など約束できないと言いつつも。
生涯の約束を。



えんどー。


「心配」

「本当に心配したんだからな!」
昼間の灼熱が嘘のような夜の砂漠。まして戦争中という事も手伝ってか、酒場にたむろしている兵士以外は、物音一つ立つことなく、静まり返っている。
宿の部屋に備え付けられているロウソクの炎も、風にゆれながら静かに部屋を照らす。
頼りなく揺れている影は一つ。しかし、人が一人分の影にしては大きい。
「はいはい」
ジェイドの手が抱きついているルークの背中をゆっくりとなだめるようにさする。ルークは拗ねたように、その表情を隠すようにジェイドの肩口に顔をうずめながら、されるがままになっている。
ちろちろとロウソクの溶ける音が聞こえそうな静寂が広まる中で、まるで大切に、誰かに聞こえてはいけない秘密の話をするように、小さな声で、囁きあうようにして。
ジェイドの首に回していたルークの腕に力がこもる。
「もし怪我とかしてたらとか、作戦の失敗した事とか考えたら、すごく怖かった」
無事で良かったと、聞こえるかどうかのギリギリの音量で、息と共に漏らされた言葉にジェイドはクスリと笑った。
「仮にも軍人なんですよ?大丈夫です」
背中をさすっていた手を止めて、自分より一回り小さいルークの背中をぎゅっと抱き締める。ルークの頭に顔をうずめると、太陽のにおいがした。
マルクト側の露店街でルークを見た時の自分の気持ちを、ちゃんと理解して言っているのだろうか?
「それよりも、あなたの行動の方が肝を冷やしましたよ。王族が戦場を横切るなど聞いた事ありません」
その瞬間にルークの身体がびくっと反応した。どうやら、ちゃんと分かっているらしい。
「それは、その。迷惑かけたと思ってる。フリングス少将にもセシル少将にも……」
もぞもぞとジェイドの肩から顔を上げると、落ち込んだ面持ちで答える。
「その謝罪は後日、二人に直接言いなさい」
「ジェイドにも、心配かけた。ごめんな」
部屋のロウソクが大きな風を受けて大きくゆらりと揺れて、一瞬だけ部屋が暗くなった。
お互いの顔が見えない。
再び明るくなってからは、変わらぬままに二人を照らす光に、影が一つ。そして長い沈黙。
「心配、させないでください」
溜息一つと共に漏らされたジェイドの言葉には若干の諦めが含まれていた。
眼鏡を外すと、それをサイドテーブルに置いて、紅い瞳で直接ルークを見る。たかが戦争ごとき。このか細い命を。
「あなたの命は軽いものではありません」
しゅんと落ち込んだまま視線をあげることのできないルークを覗き込んだ。
「誰にとっても。私にとっても」
「……ごめん」
同じ事しか言わないルーク。もしかしたらジェイドが怒っていると思っているのかもしれない。
「怒っていませんよ」
安心して欲しい。今はただ。
「仲直りのキスをしましょう」
あなたの体温を感じて、生きていることを実感させてください。
え?と顔を上げたルークにニコリとジェイドが微笑むと、ルークも照れたように少しはにかんだ。
ロウソクが再び強い風にあおられた。部屋が一瞬暗くなる。
影も、一瞬見えなく。



えんど。


「今日は子どもの日だな」
「そうですねぇ」
「で。仕上がったのかよ?」
「いいえ。忙しかったらしいですよ。無理だったようです」
「……見えてた結果だよな?」
「そうですねぇ。だからお詫びにインリンなあなたを載せようと思ったらしいですよ?」
「はぁ!?ばっかじゃね?やめろやめろ!!」
「でも思いなおして止めたらしいです。あんな意味なしオチなし、ルークだけが満足したヤツ」
「ちょ!誤解だ!!!!」
「ですが、かなり気持ち良さそうにしていましたし……」
「おーまーえーが!」
「はい。私が?」
「お前が盛った薬のせいだろ!」
「気付かないあなたが悪いんです」
「……っこの!!!」
「ふふふ。このノリだと全部喋ってしまいそうですね」
「つーか!どうすんだよ!あの拍手文!だいたい最後まで読んだやついるのか!?」
「それが恐らく極少なんですよね。インリン発言を見た方」
「じゃぁ、ここで言ってても仕方ねーじゃねぇか!」
「ま、一部の方が分かって下さりますよ」
「ほんの二、三人だろ!」
「少数派意見は大事ですよ。あなたのあられもない姿を見たいと仰って下さる奇特な方もいらっしゃるんですから」
「管理人のスキルじゃ何書いても一辺倒だろ!」
「ほう。私のテクに不満が?」
「そうじゃねーーーー!」
「なんなら、ここで押し倒しても私は一向に構わないのですよ?」
「ちょ、ブログで何言ってやがる!」
「反転してしまえば見えませんからね。さぁルーク、お遊戯の時間ですよw」
「や・め・ろ! いいから。どうすんだよ!」
「(つれないですねぇ)どうやらしばらくは放置するらしいですよ」
「放置!?」
「5月中にはどうにかするみたいですが、今日明日では無理なようです」
「……最低だな」




「日記のススメ」

「まだ終わらないんですか?」
「うるっせー」
カリカリと一生懸命ペンを走らせるが、終わりは見えない。
今日は書く事がたくさんあるから、いくら書いても終わらない。頭にペンが追いついてない。
「えっと、それでアニスが……」
「るーくぅーーーーー」
「っだーー!少し黙ってろよ!」
日記を書くのは楽しい。前は書くこともなくて、つまらないと思っていたが、今は毎日が新鮮だった。
同じことの繰り返しが無い。
昼間あったことを思い出して、記録していく。
そして、ふと気になったときに読み返す。
あぁ、あんな事あったんだなと思える。それが楽しかった。
なので、後ろからちょっかいをかけてくるジェイドが大変邪魔なわけで。
「構ってくださいよ、ルーク」
そう言って、後ろから抱きしめてきたり、髪を触ってきたり、うなじにキスを降らせてくる。
……邪魔なわけで。
しかも大人気ないだろ、その行動は。
「もうちょっとで終わるから大人しくしてろよ」
後ろにべったりくっついているジェイドをばりばりとはがす。
「何ですか。人が本を読んでる時はくっついてくるのに」
「本はくっついても読めるけど、字は書けねーんだよ」
ベッドのふちにジェイドを座らせた。そして適当に宿の棚に入っていた本を取り出すと、ジェイドにずいっと差し出す。
「これでも読んで待ってろ!」
「やれやれ。いつもとは逆なのですね」
ジェイドの軽口を無視して再びテーブルに向かう。
カリカリ。終わりが見えない。
次は。
ジェイドの事、書くところなんだから。
かすかに頬を染めてペンは止まらずに走り出す。



終。