『飴』


飴玉を手に入れた。
というよりも長旅に出る時に携帯食料は必需品であり、とりわけ固形栄養物といわれるサプリメントと糖分補給に欠かせない飴玉と水分は当たり前に持ち歩いているのだが、アルビオールを利用するようになってから長期保存の利くものも重たいものも全て積んでおけるようになった為に、中々手に入れる機会が減った。
オレンジ味、ブドウ味、ソーダ味にイチゴ味。色とりどりの飴玉はまるで宝物のようだ。

「よーっし!」

子どものように飴玉を一個ずつ数えて満足したら袋に戻す。ついでに赤いイチゴ味を摘まんで口の中へ放りこんだ。

「んまーい」

これぞ至福の瞬間だとルークは頬をほころばせる。口の中を転がし、その甘く溶ける味を堪能した。飴の入った袋をポケットに入れて歩き出した……その瞬間。

「おや、買い食いとは行儀が悪いですねぇ」

ギクリと背中を震わせて振り替えれば、パーティーでも年長者であり実質の参謀であるジェイドがニヤニヤと眼鏡の奥の赤い瞳を笑わせて立っていた。
思わず喉にひっかかりそうになった飴玉を口の中に戻して、むせかえりながらルークはジェイドを睨んだ。

「驚かせんなよなー」
「買い食いなんてするからです」

味気のない鼈甲など飽きて仕方がないのだ。ルークは唇を尖らせて、自分の財布から出したんだとボソボソと告げる。

「美味しいですか?」
「あ、ジェイドも喰う?ホラ」

ルークはポケットにしまった飴玉の入った袋を取り出して、ジェイドに差し出した。菓子特有の甘い香りがして、ジェイドはクツクツ笑う。

「虫歯になりそうな香りですねぇ」

それでも手を伸ばすのは付き合いの良さなのか赤いイチゴ味の飴を指先に摘まんで、ジェイドは自分の口に運んだ。

「あ、今、俺も同じイチゴ味食ってるぜ!」
「おや、お揃いですか」
「だな!」
そうして、ふと思い付いたジェイドがベッと舌の上に飴玉を乗せて落とさないように器用にルークへ向けた。

「はべあす?」
「……あ?」

再び自分の口にしまって、ジェイドはルークに問いかけた。

「食べます?」
「何で? おんなじ味食べてんじゃん?」

何故かお子様ですねとジェイドが肩をすくめて笑った。
ポコンと飴玉を頬に入れたジェイドは……。

「あなたと私の飴玉を交換しませんかっていう遊びじゃないですか?」

思った以上に阿呆な思考を持っていた。



END







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