『黒・白日』


「どういうのがいいかしら」

ティアが真剣にお菓子コーナーと睨みあう。

「んふふー。3倍返し、3倍返しっと。アッシュも一応おぼっちゃんだし〜わほー!がっぽがぽ!」

本音だだ漏れのアニス。

「まぁアニス!そんな理由なんて……」

一人の為だけにと一番高級品を手に取っているナタリア。
そして。

「……」

一本引いているルーク。
世の中はバレンタインという、かくも恐ろしいイベント日。
ルークも知らない訳では無かったが、まさか自分があげる日が来るとは思わなかった。
しかし何が一番いいのかなんて分かるはずもなく。アニスが呆れながらあれこれと勧めてくれるものの、矢張り相手が何を一番気に入るのかなんて分からない。

「あ、これいいよ、これ。ピーナッツチョコ!」

カラフルな銀紙に包まれた小粒のチョコが詰まったバスケットを指差すアニス。

「ピーナッツチョコ……って、なんで?」

流行は生チョコだとさっき呟いていたアニスの言葉を聞いていたルークは首をかしげた。
それに対してアニスがぐふふと、とても悪い顔で笑った。

「大きさが丁度良いじゃない!」
「一口サイズなのがか?」
「ちっがーう!チョコレートプレイに!」

ビシッ!
今度は空高く差したアニスの指先の意味を理解出来ずにルークは渡されたチョコ入りのバスケットをレジに持って行くはめになった。




「それで?」
「いや、その……やるよ」

夕食も終わり、入浴も済み、二人きりの部屋でルークがポツポツと話し出した内容にジェイドの唇の端は限界までつり上がっていた。期待していなかったと言えば嘘になる。
すごく期待していた。
彼女とそういう関係になってから、意外に自分が記念日フェチじゃないかと思う位、年中行事に気を使っていた。 胸が踊らないはずがない。
なんといってもバレンタインだからだ。……根拠は無いが。

「なら一応受け取りましょうか。で、ルークはこれをどう使えとアニスに言われたのです?」

馬鹿正直に何を思ったのか事の顛末を全て話したルークに苦笑が漏れてしまう。
黙っていればいいのに。
ただでさえルークから貰えたというのが嬉しいのに、これ以上期待を膨らませる材料があっていいのか。

「んと、その大人の時間で使えって」
「具体的には?」
「な、何も」

眉間に皺を寄せて、風呂上がりで頬を染めた彼女は正に準備万端にしか見えない。
ジェイドはルークから受け取ったバスケットの中から綺麗にラッピングされたチョコを一つ取り出し、包みを開けた。

「ルーク、噛まないで下さいね」
「お?おぉ」

その言葉にうなづき、ルークはジェイドの手から唇をつつかれるように差し出されたチョコを口に含んだ。
噛まないで、と言われたから、そのままにしとくのも変だし口の中で舌を使って転がし表面のチョコを舐める。

「ん……甘い」

意外と溶けにくいチョコなのか口の中で少しずつ甘味が広がり、ルークの舌にカカオが広がった。
そして……ジェイドが食らいついてくる。

「む!?んっ」

いきなり絡んできた舌がルークのチョコを舐め、ピーナッツだけになった元チョコレートを自分の方へ持ってきてしまう。
ジェイドの口の中でピーナッツが咀嚼され、飲み込まれる。

「お、お前……なんつー!」
「ほら、もう一粒」

ポイッ。
ルークの口内に再びチョコレートが投下された。
そして今度は考える間もなくジェイドの唇が重なり、二人の間でチョコを溶かしながら互いにチョコを受け渡し始める。
時折強く舌先を吸われ、絡み合う舌の熱とチョコの甘さにルークの思考が麻痺してくる。
その内、チョコもピーナッツもどこかに消え、それでもかすかに残る甘い香りに深く角度を変えて重ねた。
やがてジェイドが唇を離し、二人の間に銀色の糸が伝う頃、風呂上がりとは別の意味でルークの頬は上気していた。

「じぇ、ど……」
「えぇ」

そっと覆い被さるジェイドの首に腕を回すルークに、夜の帳が下ろされた。





「で、で、どうだったのチョコレートプレイ!」
「アニスったら下品ではありませんか!」

そう言いつつもナタリアも手にしたマグカップを何時までも口に含む様子を見せず、ティアも頬を赤らめながらルークをの話に耳を傾けている。

「や、何だって、その……あー」
「ぶっちゃけ、どこに入れたのー!?」

恥という恥はどこかに捨ててきたらしいアニスは食い入るようにアレコレと深く聞いてくるものだから、ルークも真っ赤になりながら流されるままに答えていた。

「い、いれたって……」

ナタリアが口元を押さえた。
アニスがニヤニヤしながらアッシュの時の参考にしなよとナタリアに笑いかける。

「うんと……最中に、その……3粒くらい……」
「どーこーにー?」
「あ……あそこに……」

きゃー!と悲鳴が上がった。ティアが小声ながらも「大丈夫だったの?」と聞いてきた。
ルークはその時の事を思い出しながら「よく分からなかった」と答える。

「なあに、大佐ってば舌先上手なのぉ?」
「アニス!」

ティアの非難の声が聞こえようとアニスのニヤニヤは止まらない。

「っていうか、アニスに勧められたヤツ、粒が小さくて……た、大変だった」

中々の苦労だったらしく、ルークが小さい声でポツリポツリと漏らす赤裸々な二人の情事。
曰く、一粒入れたら簡単に奥に入ってしまった。
曰く、取り出す為にジェイドから散々な卑猥な言葉を投げられた。
曰く、その指で散々熱くなった場所をかき回され吸われる羽目になった。
チョコを一つ残さずに食べきった頃には朝方でルークは立てず動けずの状態だったらしい。

「あー燃え上がっちゃったんだ……」

アニスがルークごめんと頭を下げた。まさか、そんなにもあの男が楽しむとは思ってもいなかった。
ルークは気にすんなと笑う。

「あいつが絶倫なのは知ってた俺がイベントに乗っかったのが悪いんだし」
「ぜつ……りん!?」

ナタリアは真っ赤になって信じられませんわと手に持っていたカップを置いた。

「ルーク、大丈夫ですの?お体に異常は無くて?」
「ん、もう大丈夫。だけどホワイトデーは期待していて下さいって言ってたからさ、それが一番怖い……」

あれから丁度一ヶ月。
チョコをあげた人からお返しが来るかもしれない日だ。

「ま、今晩も励むしか無いね、ルーク」

アニスが両手を広げて諦めのポーズを取った。



後日談として、リキュールの入ったマシュマロを使われた二人の情事を聞く女性陣がいたとか。



END







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