『ひな祭り』
幽玄に佇む金髪褐色裸の男が纏うは、どこか楽しそうな空気。
目の前には赤毛の青年が……………縛られていた。
「どうだ、ルーク?」
「さいっあくです、陛下」
着流すように十二単の下の緋袴が艶やかで、どんな設定なのか当初の頃のように長髪になった朱金は蝋燭の灯りに淡く光っている。
「たまらんなぁ、その強気。お前さん、今がどんな状況なのか分かっていないようだな」
その雰囲気とは似合わない恐ろしい情欲の滲む海のような青。
その瞳がルークの衣服の下まで見透かすような視線を投げ、ルークは身体をよじった。見て欲しくない。なんだか変な気分になりそうだ。
「今日は、ひな祭りだぞ」
「……知ってます」
「なら話は早いな」
リアルお代官様だぞ!
ピオニーはルークにいざのしかかろうと両手を上げた。
ぎしり!
畳が鳴ったわけではなく、しかし鋭い音が聞こえる。
「陛下の分際で私のルークに触れるなんて永遠に叶わない夢ですよ」
正義の味方登場と言わんばかりに眼鏡のブリッジを上げて、青い軍服に袖を通したジェイドの腕がピオニーの腕を捻りあげていたのだ。
一瞬声にならない悲鳴を上げたピオニーから脂汗が流れる。芝居ではない、本気の汗だ。
「ギブ!ぎぶぎぶぎぶ!」
「ほぉ何をくれるってんですか?」
「そっち(give)じゃねぇ!ギブアップだっつーの!」
だらしないですねぇとジェイドはピオニーの腕を離す。
そして呆気に取られていた可憐な姿のルークに近寄ると、そのルークを拘束していた縄を切ってやり、脱げかけた衣装を直した。
有難うとはにかむルークの腕がジェイドの背中に周り、微妙に綺麗に物語が終わる。
はずがなかった。
「灯りを付けましょーしーとねにーお花を散らすー俺のるーくぅ」
逆に縛り返されたピオニーが何とも嫌な替え歌を作り出し、その場で歌う。
しかも字数が多くて『俺の』がやたらと早口で上手く聞き取れない。
「ごぉにん揃えば稚児遊びぃ〜今日は楽しいひな祭りぃ〜」
今時こんな下品な人間が国を治めていいのかと疑問しか浮かばない人間性を表した歌だ。
「下品ですよ、陛下。何より、私の可愛いルークをあなたの卑猥な妄想に使わないで頂きたい」
「なんだよ、想うのは勝手だろー?いいじゃねぇか俺の妄想ん中で激しく乱れるルークがいたって」
「うぇ!?ちょ、陛下!?」
程よく鍛えた身体に、まだ成人とは言えない肉付き。
蠱惑的な翡翠の瞳に艶やかな夕陽の赤。
潤んだ瞳から溢れる涙は情愛に満ちて、頬を滑りその顎を伝う。
唇から漏れる甘やかな吐息に乗せて高く響く悲鳴を楽しみながら揺らす腰は極上のぱらだいs
「だから下品です」
ピオニーの妄想をジェイドが絶ち切った。
ルークはジェイドに抱き着いたままガクガクと震え出している。
「いいじゃねぇか、別に。いつからルークがお前の物だって決まったんだよ?皇帝陛下の俺が知らない所でよー」
「そんなの一億と二千万年前からに決まってるじゃないですか」
ヒートアップする二人の冷えた空気はあらぬ方向へ行く。
「八千年たった今、さらに愛情は深くなっているのですよ!」
自分が何を言っているのか分かっているのかジェイドは胸を張り、ピオニーは敗北感を味わう。
そして切り替えの速さで立ち直った。
「まぁいいじゃねぇか。ひな祭りなんだし」
「あなたひな祭りの由来をちゃんとご存知でそんな事言ってるんですよね?」
しかしピオニーは相変わらず縛られたままだ。
ピオニーは縛られたままピョコピョコと移動し、わざわざ後ろ向きからやや影を落とし振り返った。
「そんなの……知らないさ」
意味が無い演出だ。
「だが一つ分かる事は、俺はお内裏様で、ルーク!お前はお雛様なんだ!」
さぁいざ!
ピオニーが喜びの笑顔をルークに向けようとした瞬間。
「どこの風俗店で毒されてきたんですか」
ベシッとピオニーの頭をジェイドが叩いた。
「ひぐっ!ひでぇなジェイド!」
「当たり前を当たり前として知らないからです」
「なら教えろよ、ひな祭りを由来を!」
売り言葉に買い言葉。
ジェイドは登場した時のように眼鏡のブリッジを上げた。
「はぁ?ググりなさい」
そんな騒がしいひな祭りの一風景。
ルークは後でジェイドに美味しく頂かれました。
めでたし、めでたし。