『鐘が鳴っても』
「そういえば知っていましたか、ルーク。とある宗教観念では年越しの際に煩悩を消して穢れのない年初めをするそうですよ」
突然そう言ってジェイドはルークを背後から抱きしめた。
えっと飲みかけのココアの入ったカップの中身が零れないようにとテーブルに置いて、ルークはジェイドの行動を受け止める。
「煩悩の数は……108」
「ひゃくはちって……そんなにあるもんなのか?」
ルークの両手両足じゃ足りない数で、かつ、アグゼリュスのように途方もない数字でもない数。
しかしまず、煩悩の意味がよく分からないのだが。
「ありていな言葉で言えば『欲望』『感情』『穢れ』などとも置き換えられますが、まぁよくも108も数をこさえたものですよねー」
あっはっはと笑いながら解説を入れる男の行動がよく分からない。
藪から棒な話題なのは本人も承知のはずだ。
一体なんだというのか。
「で、突然なんだよ。そのボンノーがどうかしたのか?」
さっきまで気難しい顔をして学術書を読んでいた人物とは思えない話題転換。
ルークは首を捻り上げて、ジェイドを振り返った。すると異常に近くにあった唇が重なる。
「いーえー」
ちゅっと軽く触れた。
「どんなに煩悩を消す力の強い鐘だろうと、あなたへの愛は消えません」
「へ?え?」
戯れのキスを繰り返すジェイドにルークがはてなマークを飛ばし、しかしどうしたら良いのかも分からずに唇を重ねる。
そしてその内、ジェイドはまたもや笑い出した。
「愛してますよ、ルーク」
笑いながら、ジェイドはルークを抱きしめた。