『音』


目を閉じて、ゆっくりとその音を追いかけた。
脳裏の奥に鮮明に思い出せる指先は、少しだけ骨ばっていて、繊細で、冷たいのに温かい大好きな指。
その一本一本が動いている。
ぱらり。
一枚、ページがめくられた。
しばらく沈黙。
そして指先でページをこすり合わせるような音。多分、これは気付いていないんだろう。この癖は。
次のページに移る前に無意識にだろう一枚だけページをめくれるように指先で確かめていているのだ。その時、ジェイドはページをめくるのが煩わしいのだろう、少しだけ眉間にシワが寄る。
すりすりとページをめくって、そしてまた沈黙。
しばらくするとパタンと本を閉じる音がした。
ベッドの上でごろりと寝転がりながら目を閉じて音を聴いていたルークを見るような動く音がする。
カツカツと硬質な音。
そして……。

「っふ、が!」

鼻をつままれた。
閉じていた目を開けると、意地の悪そうな微笑を浮かべているジェイドがルークを覗き込んでいる。

「狸寝入りとは、いい度胸ですね。そんなに眠いんでしたら出かけてきますから、ゆっくりお休みになりますか?」

元々ジェイドが勝手に宿の部屋で本を読み始めたのだが、ルークが目を閉じて眠っているように見えるのが気に喰わなかったらしい。
つままれた鼻をさすりながらルークはジェイドを見た。

「寝てねーよ」
「じゃ、何をしてたんですか。まさか虚構の世界で私とお花畑をかけっこしてたんじゃないでしょうね?」

やたら嫉妬深い。というか、その妄想の意味が分からない。
でも、自分が何をしていたかなんて、ジェイドの音を聴いていたとは素直に言いがたい。
あの音達だけは、自分だけのもの。
愛しいジェイドの、ジェイドが知らない、自分だけ知っている音。
それは秘密がつまっていて誇らしくて愛おしくて大切でささやかな優越感と共に胸の奥にしまっておきたい甘い想い。

「それはー内緒だ!」



END







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