『七夕伝説』
ある日の事、空の上では、こんな事がありました。
「いー加減にして下さい、離して下さい!」
「釣れないなぁルーク。俺とお前の仲じゃないか」
「今回は、そういう配役じゃありません!」
ルークは暴れながら懸命に父親役……ピオニーの腕の中からの脱出を試みていた。
「父親と娘の禁忌を犯した愛の物語なんて素敵じゃないか」
「い・や・です!ジェイドは!?ジェイドはどこですかっ」
尚も、ルークにしなだれかかり、隙あらばルークのヒラヒラした女性物の服の下に手を入れて来ようとするピオニーを必死に牽制しながらルークは周りを見回した。
「あいつ、今回は牛飼いの役割だから今頃、牛に干草食わせてんじゃね?」
いつもの服装よりも神々しい立派な衣服に身を包んだピオニーが言いながらルークの帯に手をかけた。
しゅるりと簡単にほどけた帯に締まっていた衣服もゆったりと解かれ、前を合わせただけの和服はピオニーの前で簡単にはだけてしまう。
「っあ!」
「ルーク、可愛いな」
ピオニーの舌がルークの耳を舐める。
ぞくりと快楽の走る身体を止められずにルークは肩をすくめると、無防備な胸の粒を許す事になり、ピオニーは指先で円を描くように敏感な場所を撫でた。
「ひぁ、も、本当に止めて下さい!」
「お父様って呼んでくれたら考えてやるよ」
「お、お父様!お父様ぁぁ!」
「やっべ、たまんねー」
考えると言った男が、にやけた笑いを浮かべたままルークの首筋に顔をうずめた。
約束が違うじゃないかとルークは頬を染めてピオニーを睨むと、ピオニーは嬉しそうにルークの身体を堪能しようと、胸先を摘んだり引っ張ったりしながら白い項を舐め上げた。
「ふっぁ!じぇいどっジェイドー!」
バンッ!
ピオニーがルークの首筋をきつく吸い、赤い花を咲かせると突然、扉が強く開け放たれる。
驚いて扉の方を見ると、そこには牛飼いの姿をし、冷笑を浮かべたジェイドがいた。
「ジェイド!ジェイド!」
「お待たせしましたルーク。今回の配役は本当に不便でして。操は無事ですか?」
現れたジェイドの方へ駆け寄ろうとするルークの身体をがっちりとピオニーが抱き締め、幼なじみを見た。
「へっ。生憎ルークは俺の手管にメロメロで良い声出し始めた所だ」
ピオニーの舌がルークの鎖骨をかじる。
するとルークが鼻にかかった甘い声を漏しながらジェイドの名前を呼び続けた。
快楽に弱く躾をつけたのは自分だが、まさかこんな展開が待っているとは思わなかった。
「陛下。ルークを離しなさい。でないと、酷い目を見ますよ」
「やってみろよ。ルークは俺の腕の中だぜ?」
見せつけにギュッと抱き締めるとルークがジェイドの方に懸命に手を伸ばす。
「ふっ。後悔、しませんね?」
仕方がないと、ジェイドはコンタミネーションで隠していたものを取り出した。
それは湯気を立てていて、美味しそうな香りがする。
ただ、ピオニーだけがそれまでの薄い笑いを引っ込めて蒼白な顔をしていたが。
「ま、さか。それは」
「えぇ。今回の配役はブウサギ飼いだったらしくてですねぇ。生きの良い子どもを一頭、シメて貰いました」
皇帝陛下に献上したいと言ったら、すぐに良いのが手に入りましたよ。
丸く、良い色と、良い香りのした皿を持ったままジェイドはルークを腕に抱くピオニーに近付いた。そして、そのまま近くのテーブルに置いてやる。
照り焼きの甘い香りが肉汁と交じり合って食欲をそそる。
しかし。
「あ、あ、お前……なんて事を」
「ジェイド!」
ピオニーの拘束が緩んだ隙にルークはジェイドの胸の中に飛込んだ。
「ルーク、もう大丈夫ですよ」
なだめるように背中を撫でるジェイドの手の温かさを感じながらルークはごそごそと緩んだ衣服を整える。
「可愛らしい衣装ですね」
いつもは絶対着ないであろうヒラヒラした貴族女性の衣装はルークの幼い顔立ちに十分はえていて、薄く化粧も施されたのだろう、そのラインの引かれた唇は可愛らしくジェイドを誘っているかのようだった。
いけませんとジェイドは己を律する。このまま押し倒してしまいたい気持ちを押さえて、ルークの肩をしっかり抱くとピオニーに向かい合う。
「では陛下。ルークは返して頂いたので失礼しますね」
ニコリと嫌味な笑顔まで付けてピオニーを見るが、顔を上げたピオニーは……それはそれは恐ろしい表情だった。
「おーのーれぇぇ。衛兵!皇帝勅命だ!この二人を捕まえろぉぉ!」
良い香りのする子ブウサギの丸焼きを涙目で見つながら、とうとう権力を施行してきた。
「ちょ、陛下!今は皇帝じゃなくて牛魔王じゃ」
「そこのジェイドは縛ったら俺ん所に連れて来い!ルークは猫耳に黒ニーハイで猫尻尾を付けて、首は鎖の付いた首輪を填めて連れて来いー!」
自分の趣味のままを叫び出すと控えていた兵士がルークとジェイドを捕らえようと動き出す。
ジェイドはルークの頭にキスを落とすとルークの背中と膝の裏に手を回しヒョイと持ち上げた。
「わっ」
「さ、物語通り逃げましょうね」
「でも陛下がっ」
「物語でも父親に追われるでしょう?」
「でも順番が違うよっ俺が仕事を怠けて……」
「いいから、いいから」
こんなに働き者の旦那なら仕事を怠けても大丈夫なんですとか訳の分からない事を言い出すジェイドは、兵士をかいくぐり屋敷の外へと向かった。
ダンッ!と外へ続く扉を開ければガイがポーズを決めて立っている。
「やぁ!カササギ使いのガイ様華麗に待機ってな」
何故か目の前にある川は氾濫していた。
空は綺麗に晴れていて、昨日も今日も雨など降ってはいないとルークがポカンとしていると、ジェイドが爽やかにとんでも無い事を言い放った。
「先ほど、譜術で増水しておきました」
「益々、物語から離れていくじゃねーか!」
「これで追っ手も来れませんからね。さっ、ガイのカササギで飛び越えましょうか」
追えーと兵士の声が聞こえる。
ルークはカササギが10羽ずつ両端に結び付いているハンモックのような布に、ジェイドに抱かれたまま乗った。
不安定で怖いと言うルークに絶対落としませんからと笑い、二人仲良く空へと旅立ったのだ。
めでたし、めでたし。
「じゃねーだろ!」
「いやぁ良くある話じゃないですか」
話が異端すぎる。
伝説の『で』の字も無いとルークはジェイドを睨んだ。
「では、こんな話なら大丈夫ですか?」
ある日、ルークは陛下のペットのブウサギを散歩させていた。何故かと言われれば、そういう配役なのだから仕方がない。
とある森の、とある滝を通りかかると、そこには見た事の無い絶世の美男が水浴びをしていた。
「あれは……まさか天の使いの?」
ルークはその男の美しい容姿を見て、どうしても旦那さんに欲しいと思い、近くにあった男の衣装を盗もうとしました。
幸い、まだ男はこちらに気付いていない。
「これさえ、あれば」
「誰です!?」
しかしルークが衣服に手をかけた瞬間に男はルークに気付き風の譜術でルークを縛り付けた。
「わっあぁ!」
そのまま男の前まで連れて行かれる。間近で見る男の身体にドキマギしてしまいルークは視線をさ迷わせた。成人した男性の身体の作りは発達途中の自分とは全く違い何とも言えぬフェロモンらしきものを感じた。
「おやずいぶん可愛らしい。私の服を盗んで、どうするつもりだったんです?」
容姿と同じように美声で問いかけてくる男にルークは緊張で口を閉ざし、ギュッと目を閉じる。
すると、その反応が男の何かを動かしたらしい。
「おやー?だんまりですか。ならば、身体に聞くまでですね」
するりと男の指がルークの唇をなぞった。
「ひうっ。な、なに?」
「質問に答えなさい。じゃないと……」
男の手が拘束されたルークの身体をなぞる。
そして足の間にある、男よりも幾分小さいソレをやんわりと揉んだ。
「あぁんっ」
「このまま、頂いてしまいますよ?」
「だから物語と違うだろー!」
ルークの叫び声が響いた。
「だから七夕って何だって話をしてたハズだよな?」
ルークは冷めた紅茶を、カタカタと震える手で唇に運ぶ。
茶菓子をつまんだジェイドは、しっかりとクッキーを噛み砕き飲み込み紅茶で流し、十分に一呼吸置いてからルークを見た。
「だから説明してるじゃないですか。では次は別バージョンの白鳥処女物語を……」
「だーかーら!配役とか何とか無しで普通に説明しろってんだ!」