『おねだり』
「なぁ、キスして」
突然の申し出にほんの少しばかり目を見開く。
一体どうしたというのか。
「突然、どうしました?」
少し鼓動が早くなった胸を押さえて見上げて来る子供に問い掛ける。
子供はぷーと頬を膨らます。
「して欲しいから言ったんだ」
子供らしい本能に忠実な欲求だった。ただ単に人肌恋しいだけなのかもしれないが……。
赤毛の子供…ルークはキスが好きだった。とりわけジェイドには良くねだる。時に視線だけで、時に言葉で、態度で。
しかし、キスが日常の挨拶レベルから考えているルークは、ガイやイオンにまでしている時もあるし、前にグランコクマの王宮に泊まった時にピオニーがルークのベッドにいたずらで入ってきた時は寝ぼけてピオニーにまでキスをしていた。
それが可愛いと受け入れている仲間は兎も角、それがいらぬ誤解を呼んでルークを魔の手から守っているジェイドの身にもなって欲しかった。
やれやれとため息を吐く。
「別に構いませんけど……ガイやイオン様に見られても構わないんですか?」
ちらりと後ろに視線をやるとコソコソと喋っているルークとジェイドを見ているガイとイオン。イオンからは殺気まで感じる。
「……見られるのは嫌だけど…でも、今ジェイドとキスしたい」
何やら視界が揺れた。ルークが頬を染めながらジェイドの垂れた髪の一房を引っ張ったからだった。
しかしジェイドが動かずにいるとルークが背伸びをしてジェイドの頬にちゅっとキスをした。
「……ルーク?」
動けないでいるとルークがジェイドも、と自分の頬をジェイドの唇に押し付ける。
どうやら、頬にキスして欲しかったらしい。
苦笑が漏れた。
子供は子供なのかもしれない。
満足と照れでさっさと離れようとしたルークの肩を頭をぐっと手を回して固定すると、無防備なルークの唇に自分の唇を重ねた。
ルークがじたばた動くが無視してイオンやガイに見えるように重なる角度を変える。
「ジェ……ぃぃぃいぃどぉぉぉぉぉ……」
遠くからイオンの地を這う声が聞こえた気がした。
横目で確かめればイオンを押さえ込むガイの姿が見える。目で微笑んでやればイオンの殺気指数が上がる。
「…や、苦しい…」
唇が離れるとルークが必死で息を吸う。頬が先程とは違った理由で赤く染まっているのが可愛らしい。瞳が潤んでいるのは気のせいか、昼間からやりすぎた感がする。
「次は是非、二人きりの時におねだりして下さいね」
笑顔で言うと呼吸が整ったルークがうーと悔しそうな顔をして呟く。
「もう、頼むもんか……」
そして背後からはイオンの殺気が迫っていた。
END
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