『恥』


「じぇーど! 俺、ジェイドが嫌いになったんだ!」

笑顔で言う彼。
ジェイドの中で時間が止まった。彼が自分を嫌いになった。一体どういう事だ。いきなり深刻な問題である。

「そう、ですか」

やっとひねり出した言葉はこれだけ。
これ以上は出てこない。
笑顔でサラリと言った彼。
自分はこんなに愛しているのに。
年齢差や性別はこんなに大きな問題だったのだろうか。彼は子どもだ。まだまだ可能性がある。自分のような35歳も過ぎて外見17歳にゾッコンになっているのが間違っているのだろうか。それでも愛してしまったのは仕方が無い。
初めて告白した夜。彼は恥らいながらも身体を開いてくれたではないか。
甘い夜だった。
それから数々の夜も一緒に越えたというのに。
互いの苦しみも、喜びも分かち合ったラブラブカップルだったはずなのに。
突然の、事。
空は憎いくらいに晴れている。澄み渡る空には鳥が飛んで、春の訪れを告げる愛のさえずりが聞こえる。
彼がさえずったのは別れの言葉。
35歳に引導を渡した17歳の言葉。
体がこわばっている。唇が変な形にゆがむ。
するとどうしたことだろう。彼が突然、泣きそうなくらいに顔をゆがめた。

「じぇ、ジェイド! ごめん! 俺」

そんなつもりなかったんだと、ジェイドの頬に手を当てて、慌てている。
その彼の手が濡れた事によって自分が泣いていた事に気付いた。泣いている、何年ぶりか。

「あ、あのな! ジェイド、今日が何の日か知ってるか?」

恐る恐る覗き込んでくる顔は愛しい子ども。愛している子ども。

「今日は、数字で言うと、4月1日です」

機械的に答えると、彼は、それでも気付いてくれないかと、ポケットからハンカチを取り出してジェイドの頬を伝い止らない涙を拭きだす。

「あの、分かんない?」
「あなたが私を嫌いになったという言葉はよく伝わりました」

だから優しく涙なんてぬぐわないで欲しい。その手に甘えたい。いつも通り接しそうになるから。
自分の告げた言葉に再びショックを受けたジェイドの涙は止まらない。
うぅっと鼻をすすりだすジェイドに彼は顔を歪めると、申し訳なさそうに口を開いた。

「あのな、今日はエイプリールフールで、一個嘘をついていい日なんだって」

ネタバレだぞと彼はジェイドの頭を子どものように撫でた。
エイプリールフール。
どこかで聞いた言葉だ。嘘をついていい日。

「それと、あなたが私を嫌いになったのと、どういう関係があるのですか?」

この子に捨てられたら行き場がないのですーと涙が止まらない。
正常な判断が出来ていない。
本気で好きなんですが。どうして嫌いとか言うんですか。
嫌いとか。
嫌いとか。
嫌い、と、か?
ジェイドの回転の速い脳が、少しだけ動き出す。
優しい手、そして優しい言葉。笑っている彼。

「ま、さか」

急速に涙が引いていく。

「エイプリール、フール」

その言葉を再び口の中で復唱し、騙された事を理解する。
涙でかすんでいた瞳を上げると、そこには困った笑顔を浮かべたままの彼がいた。
ネクロマンサーの一生の恥になったという。



END




「彼」をルークにすると可愛い照れ話に。
「彼」をラルゴにすると、笑い話になります。



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