『大人のバレンタイン』


困ったなぁと、腕を組んで考えた。
困ったなぁと、頭を捻って考える。
困った……と両腕を地面に倒してしまいたい気分。
しまったと思ったら、もう遅かったのだ。
目の前には湯煎に失敗して固まっているチョコレート。
時計を見ると既に深夜は越えていて、なんだか泣きたい気分になる。

「はぁ。もう片付けよ……」

無理だったし。
ルークは呟くとスポンジを泡立てて、使った器具を洗い始めた。
そして部屋にある、昼間、万が一の為に買っておいた市販品のチョコレートを思い返す。
本当なら自分で食べようかと頭をよぎったけれども食べなくて良かった。こうして役に立つ結果になったのだし。
シンクの周りを片付けてダメなったチョコレート共々、ゴミとして処理した。
ため息をつきながら、綺麗になった台所を確認し、受付にいた宿の主人に礼を言った。その足でフラフラとあてがわれた部屋へ向かう。
深夜の宿は恐ろしい程静かで、自分の歩く音が嫌でも大きく聞こえる。仲間も皆、すっかり休んでいるに違いない。いつもなら気配がすると部屋への道すがらに誰かかにかに声がかけられるのに、今日は静かだ。

「バレンタインだよ〜」

元気印のアニスに渡されて気付いたのは昼間。今日はバレンタインだった。
いつの間に用意したのか、アニスは人数分のチョコレートを用意しており、義理チョコをルークとジェイドとガイに、ティアとナタリアには友チョコを渡していた。
甘いチョコレートを食べながら、自分の想い人に愛しいチョコを渡せる日なら……と一大決心をしたものの……。
結果は無惨にもチョコを溶かす段階で崩れた。
こんな事ならアニスに教師役を頼めば良かった。
そして現在。
日付けは更新されて、しかも部屋数が取れなかった為に偶然同室であるジェイドがいる部屋へと、手ぶらで帰る事となったのだ。
しーんとしている扉のすき間に目を凝らすと、部屋の奥でランプが付いているのが見えた。ジェイドはまだ起きているらしい。
あぁ気まずい。
なんと言い訳したら良いのか分からない。
こんな夜中まで何をしてたんですか、とか。
夜更かしをして明日起きられるんですか、とか。皆さんの迷惑を考えて下さいとか。
絶対言われる。
頭の中では何通りかのシュミレートを繰り返すが、どれもジェイドの嫌味と冷たい視線に射抜かれた。
どうしようと部屋の前で悩む。
どうしようもないと、ため息がもれた。
とりあえず、手に持っていたラッピングされた市販のチョコを隠すように背中に回し、片手でドアノブを回そうと、手を上げた瞬間。

「遅かったですねぇ」

ガチャリと扉が開いた。

「っわ!なんでっ」
「しー。夜中ですよ。大きな声を出さない」

いきなり開いて、心臓が飛び出るかと思った。
冷や汗が止まらないが、注意されながら大きく開かれた扉をくぐり、ルークはジェイドに隠し持っているチョコを見られないように部屋のベッドへ向かった。
ジェイドはルークをチラリと見るものの、部屋の扉の鍵をかけて、備え付けのテーブルに座ると、それまでの続きであろう書類に目を通し始めた。

「あれだけ露骨に部屋の前で気配が止まったら誰でも気付きますよ。ボーッと座ってないで、シャワー浴びて早く眠りなさい」

こちらに視線一つくれずジェイドは、よどみなく告げた。
お陰でチョコは見つからないけれども、釈然としないものがあるのも確かで。
チョコだけど。
たかがチョコだけど。
頑張ったんだけどな、色々と。
喋りたくは無いが、喋りたい気持ちがあるのも確かで心の中は二律背反。
ルークはギシリと体をしっかりとベッドに乗せると、背を向けっぱなしのジェイドに向かって、なるべく注意を引くようにして聞いた。

「なぁ、聞かないの?」
「何をですか?」

返事は返ってくるものの、ジェイドの視線は未だに書類に向かっている。
パラリと書類が捲られる音が、憎らしい。

「まさかバレンタイン……なんて言いませんよねぇ」

クスリと背中が笑った。
背中は振り返らない。
ルークが、バレンタインのキーワードに固まってしまったのを感じたのかジェイドは背中を向けたままで語る。

「こんな夜遅くまで、焦って急いでチョコを作っていたら失敗しましたー、なんて今更少女漫画でも受けませんよ」

全部図星で全部当たっていて、カチンとくる。
くっそとルークは隠し持っていた綺麗にラッピングされたチョコをジェイドに気付かれないように、そっと包みを外した。
ジェイドは、背中を見せたまま。

「明日の朝、起きる事が出来なかったら皆さんに迷惑がかかるんですよ。分かってるんですか?」

小さい生チョコを一つ手に取ってジェイドの背後に近寄る。
途中でベッドがギシリと鳴ってしまい、ジェイドの言葉が途切れた。

「ルー…」

そして一呼吸遅れて振り返ったジェイドの唇に自分の唇と、生チョコを重ねた。
半分以上は自分の口に入ってしまったが、ジェイドの口内に自分から舌を差し入れれば、ルークの舌についたココアパウダーがジェイドの中に広がる。
ジェイドは殆ど動こうとはせず、ルークになされるままだったから、ルークは口の中にあるチョコをジェイドに味あわせようと、自分の舌とジェイドの舌を懸命にすりあわせる。
唇を離す頃に息も耐えだえになっていたのは、やはりルークの方だった。
ちゅっと可愛らしく音を立てて、口の間に糸が走らないようにした。

「甘いですね」
「チョコ、だからな」

丁度良かったと、甘いものが欲しかったんですとジェイドは、さっきまでしつこい位に見ていた書類から、あっさりと手を離すと、キスとチョコに満足したらしい笑みを浮かべているルークの肩を掴むと再び唇を重ねた。

「っむぅっ!?」

驚いて声を出すルークの唇を食んで、ザラリと歯を舐めると、慣れているルークの舌が顔を出す。
その舌を絡ませて、甘く深い口付けをすると、ルークがすがりついてくる。胸元のシャツにルークの指が絡み、皺を作る。
力が抜けてきたのか、だんだんとジェイドの方へと体重がかかってくるルークを抱き締めて、するりと腰に腕を回すとルークがピクリと身体を震わせた。
舌で、ルークの舌を絡み取って、歯をなぞり、あふれた唾液は卑猥な音となって二人の唇を濡らした。

「あふっ……んっ」

キスに酔うルークの鼻にかかる声が甘い。
ぴちゃ、くちゅりと水の音が生まれては呼吸を奪うように唇をすり合わせ、吸い上げた。
そうしていると完全に力が抜けて、カクリとルークの全体重がジェイドの腕にかかった。
唇は離れ、ルークは荒い息をついている。

「で、なんで突然チョコなんですか? まさか本気でバレンタインなんですか?」

腰の抜けたルークを腕の中から離さないように抱き止めたまま、ジェイドは意地悪そうにルークに言ってやると、弱々しい動きでルークがもがいた。
離せー!と暴れるルークをギュッと抱き締め直す事で黙らせて、不意を打ってルークの額にキスを落とす。

「ば、バレンタインだよ。悪いか」

ジェイドのキスに気を良くしたのか、ジェイドとは目を合わせないようにしてルークはうつ向いて小さい声で言った。
言いたくなかったが仕方無い。
まぁチョコはちゃんと渡せたし、食べさせられたし、これで良かったんだと思う事にしたルークは、ジェイドが先ほど言い当てた事をボソボソと喋り出す。
チョコを作ろうとして失敗した事。
それでも市販のチョコを用意していたからジェイドに渡そうと思っていたが、仕事に夢中で嫌味を垂れるジェイド。だから驚かせようとキスした、と正直に話した。
すると、ジェイドはにっこりと笑顔を作る。

「なら、大人のバレンタインデーをしましょうか」
「へ? でもさっきジェイド、今時、こんな展開は……とか言ってたじゃん」
「続きがあるなら話は別なんです。何より仕事を中断した責任を取って下さいね。休憩もしたいですし」
「う」

少し回復しただろうルークを立たせて、ジェイドはルークが座っていたベッドへと近寄った。

「チョコ、まだありますか?」
「え? う、うん。生チョコだから柔らかいけど」
「結構ですよ」

疑問符の浮かぶルークからシーツの間に埋もれていたチョコの箱を受け取ると、ジェイドはルークの見ている前でベッドの上に乗り上げると、ルークに見えるように大きく足を開いた。
そしてズボンのファスナーを下ろすと、まだ反応していないジェイド自身を取り出す。
いきなりの光景にルークが真っ赤になって目をそらした。

「ルーク、ちゃんと見ていなさい」

動作を一度止めてジェイドはルークをとがめた。
すると、赤くなりながらもルークは視線を上げてジェイドを見る。
満足そうに良い子ですと言うと、ルークは意味分かんねぇと毒付いた。
ジェイドは生チョコの詰まった箱の中から2つ程、チョコの塊を取り出すと手の平で薄く伸ばし、それを躊躇いなくジェイド自身に塗り付けた。

「っ馬鹿! 何やってんだ! 勿体無い!」
「えぇ、勿体無いですね。だから舐めて下さい」
「え?」
「あいにく、生チョコほど甘いものって苦手なんですよ。だからルークが食べて下さい」

ホラ、と腰を突き出された。
甘いチョコの香りがジェイドから放たれている。
躊躇わない訳がない。
チョコの舐め取りとは言え、ジェイド自身への奉仕だ。あまり良い思い出は無い。

「ルークぅ。折角のチョコですよ。粗末にしてはいけませんねぇ」

用意したのはルークだ。
しかし何を言っても無駄なのだろう。
ベッドの上に突っ立ってるルークの腕をぐいっと強引に引いてジェイドはルークをベッドに乗り上げさせた。
ルークの顔に近付くジェイド。
カカオの香りが絶品で、正直美味しそうだ。

「ちくしょ、これっきりだし!」
「はいはい」
「舐めるだけだからな!」
「皺の間に入り込んだココアパウダーも綺麗にして下さいね」

はふっとルークはベッドに身を預けると、文句を言いながらジェイド自身をパクリと口に含んだ。
最初こそ甘い香りが口内に広がったが、やはり独特の香りが鼻についた。
舌を使って幹や頭を舐めて、生チョコを取る。チョコの甘い香りと少し苦いココアと、男の味。
それに自分の唾液が絡みつくとピチャピチャと舌を動かす度に水音がして、身体の奥がカッと熱くなった。
口に入りきらない分は、一旦、男から口を離して、舌を使って袋まで記録に舐めた。
少しずつ大きくなるジェイドに自分の手管や痴態がそうさせているのかと思うと下半身に熱が溜まりだす。

「んっ……はふっ」
「ちゃんと先の方にもパウダーが付いていないか確認して下さいね」

ジェイドの手の平がルークの頭を愛しそうに撫でた。
ルークは言われた通りに再びジェイドをくわえ、舌先で亀裂にも舌を押し込むよいにグリグリと刺激を加えるとジェイドがまた一回り膨らむ。

「……んっ……んっ」

まだかまだかと舐め取るにつれて、ジェイドの香りが強くなる。
大分、力を持っていて立ち上がっていた。

「ルーク、もういいですよ」
「え?」

そう突然言われて、唇を離し、顔を上げると、ルークを撫でていなかった方の手が、ぬるりとルークの頬をに触れた。
ぬるり?あまりに独特の感触に疑問を持つ間もなく、ルークの鼻に届いた香りはカカオ。
まさかとルークはジェイドの手をどかせて自分の手で確かめた。勿論、手に付いたのはまうごとなきチョコだった。

「済みませーん。どうやら手に残っていたチョコがルークの頬に付いてしまったようですね」
「お前……!今、新しいチョコ潰しただろ!」
「いえいえ人聞きの悪い!しかしチョコが勿体無いですからね、私が舐め取ります」

ジェイドはにこりと笑みを作るとジェイドを舐める為にかがんでいたルークを引き寄せて、その頬に舌を当てた。

「いいっいいから!自分で洗うし!」
「まぁまぁ、遠慮なさらずに」

制止は無駄に終わりザラリとジェイドの舌がルークの頬をなぞった。
ペロペロと犬のようにルークを舐める舌はだんだんと移動し、耳付近までくる。

「ちょ!そこにチョコは付いてない!」
「念のためですよ」

ルークに嫌な予感がした途端、ヌルリとジェイドの舌がルークの耳を舐めた。

「ひうぅっ」

チョコを舐めとるのか、なんなのかジェイドの舌と歯がルークの耳を犯す。
普段から慣らされてる身体が嫌がおうでも反応して、思わずジェイドにしがみついていた。

「やっ、ちょ、ジェイド!」
「はい。終了です」

最後にベロリと大きく舐めて、ジェイドは口を離す。
やっと終わったとルークは安堵の息を漏らしたが、それを聞いたジェイドがにやりと意地の悪い顔をして、ルークを見た。
あまり良い予感はしない。

「おやっ、ご所望ですか」
「何を」
「続きですよ、続き」
「いらぬぇ!自分で処理出来るし、チョコもちゃんと舐めたし!バレンタイン終わり!」
「想いの通じ合ってる二人がお互いにこんな状態で何もしない方がおかしいですよ」
「おかしくて結構!」
「さっ、仕切り直しですよー」

こうして恋人同士のバレンタインは更けていった。
翌日、ルークが起き上がれなくて結局、出発は延期になったとか、隣部屋だったガイはその事情を知っているとか。




END





遅すぎるバレンタインネタです。
しかもオチは逃げます。
本番が書けません。
て、照れる……!本当なら、このままチョ○レートプレイはルークのあんな所にチョコを塗って、「おやーここにもチョコがついてました。取ってあげますねー」的に。
ついでにあんなところはユルユルに。
最後までーという流れなのですが。
逃げ、ますよ、ね!
ホワイトデーはちゃんと期日中に上げたいです!
読んでくださってありがとうございます!