『綺麗』
「あぁ、ルーク。綺麗ですよ」
そう言って、愛おしそうに撫でる。
頬は動かない。
翡翠の瞳は遥か彼方を見て、止まっている。
「ルーク、聞いて下さい」
カツン、と軍人のものである鉄の仕込まれた靴が高くなる。無機質なコンクリートの打ち付けられた部屋に響いた。
その管で繋がれ、培養液に浸された仔を愛おしそうに撫でる。
「この間ガイが来たんですよ。あなたの姿を見たいと仰って」
紅い目が嬉しそうに笑みを作る。
「ですが、あなたは恥ずかしいでしょう?ですから丁重にお断りをいれておきました」
あなたの為を思って。
あなたが嫌だと分かっていたんです。
「あの様子ではいずれルークに会いに来るみたいですが……いかがしますか?」
ルークは答えない。
その代わり、ごぽりとルークの唇から大きく泡が出た。白い泡は紫色の培養液から高く昇って、空へと向う。
「……そうですか。では、見せてあげましょうね」
誰と会話しているのか。
どこからも声が聞こえないのにジェイドは誰かと喋っているように会話をする。
うっとりと培養液の詰まった培養層を撫でる。
「大丈夫ですよ。手が無くとも足がなくとも、あなたは綺麗ですよ」
培養層から離れて、起動しているコンピューターに近寄る。そこにはチューブを通して中に送り込まれている栄養素や刺激、そして、その体が生きている事を表す心電図などが次々に表示された。
脈拍、上昇。
心拍数、上昇。
「あぁ、ルーク。嬉しいんですね。ガイに会えるのが」
ふふふと笑った。
ルークの唇から、またごぽりと泡が出た。
その翡翠の瞳は遥か彼方を見つめている。
ジェイドが思い出したように、部屋の扉に向って歩き出した。
「ルーク。今夜はまた、そこから出してあげますからね」
だから準備しておかないと。タオルと着替えとベッドと……。
今夜の準備の為にと部屋を出ようとして、あぁとジェイドはルークを振り返った。
「今夜は暴れないで下さいね。もう、切るところがありませんから」
大人しくしていれば、沢山可愛がってあげます。
バタンと扉が、閉まった。
止まっていたルークの瞳が、焦点の合わない遥か彼方を見つめた瞳が閉まった扉を見つめていた。