『謎』



 野宿ではない日は各々が早めに休む。増して街についた初日といえば時計の針が日付を超える前にはほとんどの人物が眠っていると言っても過言ではない。
 ただ一人、軍服で旅を続けている男以外。
 彼はなんだかんだといって席を外して、深夜を越えてから宿に帰ってくる。街への滞在は大抵二、三日だから旅に影響を与えないようにとか、初日だけの行動だから良いのだが同室になった身としては、彼が帰って来るのを待つのも疲れるし、彼が帰ってきた時に運悪く起きてしまったら、それはそれで疲れる。
 どうしようかと、同室になったルークは考え込んでいた。
 もう彼が出て行ってからとうに3時間は経つ。
 部屋の時計はカチカチと規則的に打つ。
 部屋のすみに置かれた荷物が寂しい。
 暇つぶしの剣の手入れも終わってしまって、ベッドの上にゴロリと寝転がる。なんだか日記をつける気も失せる。
 暇だが、みんなはもうくつろいで自由な時間を過ごしているだろう。
 こういう日はミュウもティアにくっついて女性の部屋で寝ている。
 どうしよう。本日何度目になるのか分からない「どうしよう」が溜息となって出る。
 と、開かれるはずのない扉が静かに開けられた。
 きぃっと。確かめるように。

「……おや、矢張りまだ起きていましたか」

 同室になるはずだった男が、帰ってきた。

「あ、お帰り」

 体を起こして、ジェイドを見る。
 出て行った時と同じ格好。変わらない態度。だけど……。

「どうしました?」
「え、あ、や。なんでもない」

 思わず目をそらした。
 アルコールと、柔らかい花の香り。ジェイドの香水じゃない、香り。
 なんだか、異常にジェイドが、男らしく見えるのは自分の錯覚だろうか。
 何かを引き立てるような彼の微笑み。

「風呂、入ってこいよ。疲れてるだろ」

 なんだか気まずくてルークは荷物の中から日記を取り出した。宿の備え付けの机に日記とインクの入った容器と馴染んだ羽ペンとを広げる。

「俺、もう入ったからさ」
「ルーク」
 こつん、とジェイドの靴が高く鳴った。
 一緒にルークの心臓もドクリと鳴る。

「私がどこに行ったのか、聞かないのですか?」
「……」
「私が何をしてきたのか、聞かないのですか?」
「……そんなの、ジェイドの勝手だろ」

 椅子に腰掛けて、日記のページをパラパラと探す。手が震える。どうしよう、なんだろう、この雰囲気。

「残念ですね、折角ルークに見せ付けたくて早めに切り上げてきたのに」

 ふーと溜息が聞こえた。
 そして部屋の隅に行って荷物をがさごそと扱う音が聞こえる。
 ルークは内心ほっとして、その音を追った。風呂に入るつもりらしい。後はこのまま眠ってしまえば何も変わらずに終わる。というか、この微妙な雰囲気から逃げられる。
 さっきまでは退屈をどうやってしのごうか考えていたのに、いざ本人が帰って来ると帰って来たで慌てている自分が悔しい。
 しかし元をたどせば、ジェイドが女の香りをつけて帰ってきたのが悪い。
 しかも、いつもよりも格段に早い時間で。

「ルーク、シャワーを頂きます」
「へいへーい」

 片手をひらひらと振った。顔が見えない状態で良かった。きっと見せ付けるという言葉を言ったのだ。胸元にキスマークの一つや二つ付いていてもおかしくない。
 しかし、それを見せてどうとする気だとも思うが。




「んっはぁ……」

 ピンと立った乳首を入念に舐められると鼻から吐息が漏れる。
 鼻にかかった、甘い声。女性のように高い声ではないが、それでも擦れた声はジェイドの欲情をそそるのか、愛撫は止まらない。

「ルーク、聞いて下さい」

 頭をもたげ始めたルークを手で掴んで軽くしごく。とろとろと蜜が溢れはじめた先端が動きを滑らかに。水音がくちゅくちゅと立つ。

「うぅ……な、なに、ジェイド」

 上気した肌に赤い花が散っていた。全部、ジェイドがつけたものだった。
 何も知らない肌に唇を立てるのは気持ちが良い。
 あの元使用人でさえ知らないルークの声を聞けるのは自分だけ。それだけジェイドは優越感に浸れた。

「私がどこで何をしていたのか」

 耳元で熱っぽく囁くだけでルークはぶるりと震えた。手で弄っていたモノも少し硬度を上げる。

「や、あぁん……だって、それは、ジェイドの勝手」
「勝手だから聞いて欲しいんです、ルーク」

 耳たぶをざらりと舐めた。噛んで、舌を差し込む。ルークが逃げようと顔を背けるのを追いかけて、やんわりと下の手を動かす。

「聞いて下さらないと、このままですよ」

 ぐちゅと音を立てて、ルークを手で握る。根元をつかむと、ルークが「いたっ」と小さくもらした。熱っぽい目が理性に歪む。
 ルークの息遣いが粗い。

「うぅ……ジェイド……」

 まだ他人の肌を知らないルークは快楽に弱い。すぐにこちらの言う事を聞くようだった。
 直接ジェイドの顔を見ようとしないが、それでも小さくたずねてくる。

「どこ、行ってたんだ?」

 ジェイドはにっこりと笑うと、言った。

「娼婦館ですよ」
「娼婦、館?」
「女性をお金で買えるところです」

 意味が分かっていないらしいルークに愛撫を再開してやると、再び、可愛らしく喘ぎ始めた。

「買って、どうするっんんっ」

 限界が近いのか、とろけそうな程の熱を持ったルークを擦ってやる。粘液がジェイドの手を汚し、下へとトロトロと流れだす。
 後ろの蕾を汚すように。

「こういう事をしていただくんですよ、ルーク」

 ぎゅっと強く先端を刺激した。

「あぁんっ」

 高く鳴いて、下からはビュクっと白い液体が出る。
 それをルークの腹やジェイドの手を汚した。とろりと手の中で液体だと主張する。

「うぅ……」

 波の収まったルークの体が完全に弛緩しきってシーツに沈んだ。
 はぁはぁと荒い息。そんな様子を見つつ、後ろの蕾に手をはせる。
 汚れた、濡れた手で。

「や、なに?」
「教えてあげますよ。女性を買ってどうするのか」

 あなたは男ですけどね。
 ニタリと笑った顔が、やたらと男くさかった。

「これから、あなたが勤めていく事です」

この愛嬌を。



END







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