『雨の日』


「やれやれ、また雨ですか」

カーテンの外を覗いたジェイドが肩をすくめた。
記録的な大雨が降り続いて早3日目。一行は悪天候の中でアルビオールを飛ばす事も出来ずにバチカルに閉じ込められていた。ただ所用で寄っただけとは言え、ナタリアもルークも登城して旅の事を話しに行ったので街で待機しているのは他のメンバーだけだった。二人共久し振りの家族との団欒でメンバーからは外れている。
今日も出発は出来そうにないと他のメンバーに報告すると女性陣は早速ショッピングの計画を立て始めた。こういう時の女性は強い。
ガイはガイで鍛錬の為にミヤギ道場へ行ってくる、と早々に出かける。
珍しく、ジェイド一人が宿に残ってしまっていた。

「いつもは……違うんですけどねぇ」

窓の外は忌々しい雨。急ぎの旅とはいえ、街にいるのに悪天候で出発するのは危険だった。休養としては長すぎる休み。書類にも何となく手が伸びない。読みかけの本は昨日で全て読み終えていた。
ガイと一緒に道場へ行けばよかっただろうか?
ふむ、と思いなおしてバチカル王室の書斎を借りようかと準備をする。もしかしたら何かフェミクリーについての解決策があるかもしれない。
カウンターに部屋の鍵を預けて雨の中のバチカルを上へ上へと登る。
雨が強く白く見えるのと譜業機関の蒸気があいまって幻想的なイメージを抱かせる。
ルークがいない、一人での行動は久し振りだった。とても自由で……静かだった。
昇降機がガタンと止まる。ファブレ家の前を通り過ぎて王宮に入ろうとした瞬間だった。

「ジェイドー!」

二日ぶりに懐かしい声が聞こえた。

「ルーク?」

旅に出ていた時とは違う…彼の私服姿に驚いた。しかも、雨の中を傘もささずに濡れて走ってくる事に更に絶句する。
怪訝な顔で出迎えるジェイドにルークが遠慮なくボスっと抱きつく。よろけそうになる身体をしっかりと支えてルークを抱きとめる。

「傘はどうしたんですか?」
「えへへ〜久し振り!屋敷から出してもらえなくてしんどかったー!」

こっちの質問には答えずにジェイドに会えた事に安堵したらしいルークはにこりとジェイドに微笑みかける。

「出してもらえなかったとは?」

何やらひっかかる言葉だった。

「父上がさー折角旅に出れない位の悪天候なんだから今の内に帝王学をかじっとけー!って。つっききりで……ついさっきまで机にかじりつかされてたんだよ……」

レムの塔でルークが消えなかった事がよっぽど嬉しかったのだろう。文句を言うルークを楽しそうに教育するファブレ公爵が目に浮かんだ。

「で、勉強は進みましたか?」

ルークの体に付いた雨をはらってやる。
くすぐったそうに目を細めたルークだが、突然都合が悪いように顔を背ける。
どうやら自分で振っておいて触って欲しくない話題だったらしい。
くすり、とジェイドが笑う。

「今から、ここの書斎を借りて調べ物をしようと思っていたのですけれど……ルークも来ますか?」

あえて誘ってみた。

「え…勉強はマジでもう…」

本気で嫌な顔をするルーク。
寒さからか濡れた体が震えだしていた。このままでは風邪を引いてしまうだろう。
どうやら予定は変更の様だった。有ったようで無かった予定だから変更されても支障は無い。

「でわ、屋敷に戻ってシャワーでもあびましょうか。その後、私が勉強の成果を確かめて差し上げます」
「ちょ、勘弁してくれよ!」

嫌がるルークの肩をがっちりと抱いて進路を変更する。
傘をさしてルークと二人で歩く。
そのほんの少しの距離。
ルークが幸せそうな顔をしていたのにジェイドは気付かなかった。



END







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