『それは甘いキスのよう』
「じぇーど」
「はい」
背中合わせでお互いの顔も見えない。
だけれども、その手はつないで離れない。
「じぇーど」
「はい」
二人の声だけが部屋に響いた。
ガラスのような緑の瞳は、穏やかに閉じられていた。
それはジェイドは同じで、赤い瞳が静かに閉じられている。
「ジェイド、どこ?」
「ここにいますよ、ルーク」
手をギュッと握ってやると、ルークの頬が嬉しそうに笑う。
「ジェイド、キスして」
「ではこちらを」
そう言ってジェイドはルークの手を持ち上げて甲に唇を付ける。
チュッと音を立てると、くすぐったかったのかルークは肩をすくめた。
「あははは」
「ルークもキスして下さい」
すると同じようにルークはジェイドの手を持ち上げ、その甲に唇を触れさせた。
柔らかく触れて、唇を立てる。
「なぁ、何のプレイ?」
「放置プレイというやつですか?」
二人で肩をすくめあってクスクスと笑った。
窓の外ではシトシトと雨が降っていて、部屋の中は二人の存在だけだった。一つのベッドの上で特に何をするわけでもなく、手をつなぐ。いたずらに言葉を交わす。
「なぁジェイド?」
「なんでしょう」
言わなくても分かるだろ?
言葉がいらない空間で、あえて言葉を使うのは恥ずかしいけれども、体を重ねる以上に温かくて満たされる。
「好き?」
「いいえ」
言葉遊びで、駆け引き。
「実は俺も」
「おや、そうなのですか?」
意外そうな発言だって、それは必然のようだ。
甘噛みするような空気に温かい背中。
邪魔されない空間。
まるで錯覚するよう。
「では、どうなのですか?」
「一緒に言わないと、だめだろ?」
世界に隔離されているような気分。
部屋の外では瘴気問題があるというのに。
今だけは、二人きりの時だけは全てを忘れて。
「ふふふふ。これで違ったら破局ですね」
「本当だな」
つないだ手のひらが温かい。
誰も邪魔されない空間で。
「愛してる」
これからも、ずっと永遠に。
この瞬間を忘れない。
END
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