『誕生日プレゼント』
「ちくしょー!勝てなかった」
年期の入った竹刀を腹いせのようにバンバンと床にたたきつけて、ルークが悔しがっている。
やれやれ。久しぶりに勝負したいと言ったから引き受けたのに、というか勝負は見えていただろうに。真剣を使うなら兎も角、竹刀である。こちらは槍である。どちらが優勢であるか少し考えれば分かる事だろうに。
「私は丸腰でも良かったんですけどねー」
「そうしたら、譜術使うだろーお前」
「当然ですね」
少しずれてしまっていた眼鏡を直して、悔しがっているルークと向かい合う。
「そうしたら確実に俺の負けだろー」
「おや、勝とうと思っていたんですか?」
当然だっ、と竹刀を腰に差し戻すルーク。さて。どうしたんだろうか。
「それで。どうして突然勝負しようと言い出したんですか?」
「いいだろ、別に」
「こんなに圧倒的に勝ったんですから、教えて下さい。勝者の強みですよ」
うっと言葉につまる。
後ろめたい事でもあるのだろうか?
「ルーク?」
「ジェイド、この間誕生日だったんだろ」
「? えぇ。まぁそうですね」
言いにくいのか俯いてしまって、ぽそぽそとルークが喋りだす。
「俺、何も準備できてなかったんだ」
「はい」
「だから勝負して、俺が勝ったら俺ジェイドに命令できるじゃん」
「? はい。」
「俺が勝ったら……その欲しいものを言ってもらって、誕生日をやり直してもらおうと思ったんだ」
「はい」
「でも、負けたな」
「そうですねぇ」
子供の浅知恵に苦笑する。そういう事か。
いつの間に調べたのか誕生日当日にはメンバーの何人からはプレゼントを貰っていた。
アニスなんて下心見え見えで寄こした。貰って嬉しいやら、お返しをどうしようと感じるものまで様々だったが、確かにこの子供からは貰っていないわけで。
しかし誕生日をやりなおすというのは突発的な意見だ。斬新だ。斬新しすぎて眩暈がする。
「うー……どうしよう」
竹刀の柄を手持ちぶたさに遊ばせる。
ふふふ、と笑いが漏れた。
「そうですね。もう今年は私の誕生日はきませんしね。プレゼントはいただけませんし、誕生会も開けませんね」
そう言った瞬間、ルークが更に沈むのが分かる。
だから。
「宿題にしましょうか」
「宿題?」
不思議そうに顔を上げて、ルークがオウム返しに繰り返した。
「来年までの宿題です。私への誕生日プレゼントの用意」
眼鏡の奥の紅い目を光らせて、秘密のように囁いた。
「来年っつても。俺っ」
明らかに狼狽している。怒ったように目が釣りあがって顔を赤くして。続きを言おうとする口を人差し指一つで塞いだ。
「ルーク」
その一言で言いたい事が伝わったのだろうか?ルークは、はっとなって黙った。
「宿題、な」
「えぇ、宿題です」
どちらともなく微笑みあった。
竹刀の柄はもう遊んでなくて。ルークは空いている手でジェイドの腕をつかんで、ジェイドを引き寄せた。そして首元に背伸びをして抱きつく。
「宿題。だ」
それが、誕生日プレゼントになるのなら。