『正しい食べ方は?』
ぽきっ。さくさく。
部屋の中で規則正しい音が響く。適度な大きさに折って、咀嚼して、飲み込む。
アニスが作ってくれたお菓子だった。細いペンみたいな感じの、チョコレートでコーティングしてある小麦を練って焼いたお菓子。名前は忘れたが確かとても単純で馬鹿らしい名前。屋敷にいた頃にも聞いた事もなかったけれど、とても美味しかった。
ぽき。さくさく。
手が止まらない。ついつい次々食べてしまう。
沢山あったと思ったけれども、もう残り数本になっていた。
「只今帰りましたよ、ルーク」
がちゃりと部屋の扉が開いて外出中だったジェイドが帰ってきた。手には数本の本を持っていたから図書館にでも行ってきたのだろう。すたすたとベッドに歩み寄って本をばさりと置く。
「お帰り、ジェイド」
ルークは焼き菓子を脇に置くと、ジェイドに歩み寄って後ろからぎゅっと抱きついた。
「おや、甘えんぼさんですねぇ」
ジェイドもまんざらではないらしく、腹に回されたルークの手を取るとその甲にキスをする。
なんだか嬉しくなって「じぇいど」と言うと体を返してジェイドが正面から抱き締めてくれる。そして甘いキス。
「……お菓子を食べていたのですか?」
すっと唇が離れると、ジェイドがペロリとルークの唇を舐めた。
「ん? あぁ、アニスがくれたんだ」
ジェイドから体を離してぱたぱたと元自分の座っていた場所に置いておいたお菓子を取った。そしてジェイドの元に持って来て「はい」と突き出した。
「残り少なくなっちゃったけど、やるよ」
「おや、ポッキーですね。しかしあなたが貰ったんでしょう? 多分、私の分は別にありそうな気がしますから、食べてしまってかまいませんよ」
一本包みからポッキーと呼ばれたお菓子を取ると、うっすらと開いていたルークの口に長い先端をちょいっと差し込んだ。
「むっ」
びっくりしたルークが咄嗟に口を閉じてしまったので長いポッキーは折れてしまう。そのまま地面へ。
「わわっ勿体無い……」
口をモグモグさせながら落ちてしまったお菓子を見つめる。
「いやーいきなりはびっくりでしたか?」
「あったりめーだろ!」
「ふふ。ではもう一度」
もう一本をまたルークの口に差し込んだ。今度はしっかりと唇の力で取って落ちない様に調節する。そんな事を繰り返していると残りが一本になってしまう。
「あ、ちょ。俺はジェイドと食べたいんだって!」
慌てて言うと、最後の一本も手に取っていたジェイドはふふふと笑った。
「最後の一本ですし、じゃぁ私も頂きますね」
にっこり笑って言われたから、「あぁ!」と言ってジェイドが食べるのを見ていようと思っていた。すると、またジェイドの手からルークの口に突っ込まれた。
「むっ」
しかし先ほどと違って慣れていたのでちゃんと唇で掴んでいてポッキーを折る事はしなかった。
が。
「むぐむぐ〜」
抗議をしようと咥えたままで口を動かそうとすると、ポッキーの先端がゆらゆら揺れる。くすりと笑ったジェイドはルークの頬を両手で押さえ込んでしまう。ポッキーの動きが止まった。
「ルーク」
甘く囁いて。
さく。
さくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさく。
食べられて。
ちゅ。