『膝の上』


「うー……」

ルークが唸っている。
そのルークの正面には食えない笑顔でジェイドが座っていた。
二人の間にあるのはマス目の入った台。そしてその盤上には白と黒の小さなボタンのようなものが綺麗に並べられていた。
しかしその盤目は黒い。
『オセロ』という遊戯の一つだと教えてもらって、こつこつやっていた年少時代。ガイと勝負して、始めは負けていたが、だんだん強くなっていきガイならば倒せる位の技量は持っていた。というか。数少ない特技の一つのはずだった。
しかし目の前の男には通じなかったらしい。ケロリとした顔であっと言う間にマス目を彼の陣地の石である黒で染め上げてしまった。

「うー」
「ルーク、勝負ありですね」

そう言うとジェイドは膝の上をぽんぽんと叩いて、ルークを呼ぶ。
罰ゲームは一番最初に決めていた。
勝負するなら罰ゲームがないと燃えないでしょうと言った男が勝った場合、5分間、膝の上に乗ってほしいと言われた。もしルークが勝っていたのなら、今日は一緒に風呂に入る予定だった。
どうして一緒に風呂に入るのかと言われれば、一緒に入るだけじゃなくて、ジェイドの髪を洗ってみたかったのだ。理由は簡単だ。柔らかそうだから。それに屋敷に来たばっかりの頃はメイドがルークの髪を楽しそうに鼻歌を歌いながら洗っていた。実は人の髪を洗うのは楽しいのかもしれない、ちょっとやってみたかったのだ。野宿じゃ出来ないから、宿屋にいる時に。
しかし負けたわけで。
負けたのなら、彼の膝の上に座らないといけないわけで。
わざと大きめの溜息をついて、立ち上がるとジェイドの前に立ち止まって一言。

「お邪魔します」
「はい、どーぞ」

言ってから腰を降ろす。

「おや、顔は見せてくれないのですか?」

ジェイドに背中を見せて腰を降ろしたルークの耳元でわざと聞くジェイド。しかも準備の良い事に彼の手は既にルークの腰に絡みつかせていた。

「んだよ、文句あんのかよ」
「勝者は私ですよー」
「別にどう座れとは言ってないだろー」
「まぁそれもそうですけどね」

残念です。と耳元で溜息をついてみせると、ルークの肩がびくりと震えた。
その吐息が耳にくすぐったい。こいつ、分かってやっているのだろうか?……そうに違いない。

「うわっ」
「おや、どうしました?」
「なっなんでもねぇ!」

がっちり腰を抑えられているので動きようが無い。
ルークが時計をちらりと見る。生憎まだ5分も経っていない。あと3分位だ。
早く降りたい、このままじゃセクハラをくらってしまう。
それに何より恥ずかしい。いい年こいて膝の上はかなり屈辱だった。しかも相手の顔を見れるような体位で座りでもしたら自分で罰を喜ぶようなものではないか。
すると。

「ちょ、な、なにするんだよ!!」

かちゃかちゃとベルトが外された。

「いえー時間は有効に使いませんとね。あと2分ですか、腕が鳴ります」
「なんの腕だよ!!」
「ではちょっと失礼しますよー」

するりとジェイドのひんやりとした指が滑り込んできた。予想もしていなかった展開に、背筋がぞっとした。もしかして、これは……。

「じぇ、じぇいど?」
「折角ですので、5分とは言わずにくつろいで頂きますよ」

私の上で。
そう言って笑顔。
首筋にチクリと鋭い痛みが走ると、やんわりと掴まれて。



あと1分。



オセロの番目はあなた色。



END







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