『お菓子といたずら』


朝起きると、サイドテーブルの上には沢山のお菓子が乗っていた。
色とりどりのリボンと包装紙で飾り付けられたお菓子と、一通の手紙。そこには「trick or treat」の文字が書いてあった。首をかしげつつ、寝ぼけた頭をたたき起こす。
今日は何の日だったっけ?
一緒に眠っていた男の姿は無く、部屋にもいる気配は無い。彼の知識をもってすればこのテーブルの上のお菓子と手紙の謎は溶けるだろうに、こういう時にいないとは間の悪い男である。
ルークはもそりとベッドから出た。
太陽が大分高いから、今日もまた寝過ごしてしまったらしい。
とりあえず身支度。
きっともう朝食の時間では無いから昼まで食事は無し。元気の良い胃が空っぽさを伝えるように「くー」っと鳴った。腹減ったなぁと腹をさするとサイドテーブルが目に入る。
まぁいいか、これだけあるし。そう思って飴らしき包みを一つとってがちゃがちゃと中身を取り出し口に放り込んだ。甘い香りが口の中に広まって、何だかし合わせな気分になった。
お昼まではお菓子で我慢だな。
そう思って、綺麗な包み紙に包まれたお菓子をいくつか手にとって、ポケットに入れる。そうして、部屋の外へ出た。



「ルーク発見!とりっくおあとりーとぉ!」

途端に後ろから強烈なタックルをくらった。

「いってぇ!何すんだよ!」

振り返ればそこにはアニスがいた。アニスはにんまり笑うと手を差し出して、もう一度言った「とりっくおあとりーと!」

「はぁ?」

先ほどの手紙といい何を言っているのか分からない。するとしばし考えたアニスが教えてくれた。どうやら、いたずらか、お菓子をあげるか選ばないといけないらしい。
それじゃぁとポケットに入っていた飴をあげた。アニスはふふふと笑って「今日は子供が超得をする日なのよ〜」と言って次の獲物を狙って走って行った。
どうやら子供にお菓子をあげないといたずらされるらしい。
自分は、一応実年齢的に子供なんだけどなぁと思いつつ宿屋の廊下を歩っていると仮装した子供に囲まれていた。

「とりっくおあとりーと」

カボチャやらネコやら狼やら吸血鬼やらお伽噺にしか出てこないような衣装に身を包んだ子供達がわらわらと手を差し出してくる。

「え、ちょ……」

さっきアニスにお菓子を渡した時にポケットから出かけていたお菓子が子供達の目に入ったらしく、ポケットからお菓子をどんどん取られていく。
止めようと思った時にはすでに全部無くなっていた。恐るべき行動力と大胆さ。
子供達は群れをなして次の標的を探しに行った。
もうポケットにはお菓子は入っていない。もしかしたら町中がこうなのかもしれない。だから一度部屋に帰って、あの謎のお菓子を取りに行こう。もしかしたらこの行事を知っていたジェイドが置いていってくれたものかもしれないし。



部屋をがちゃりと開けると、先ほどまでいなかったジェイドが部屋で本を読んでいた。
そしてサイドテーブルに乗せてあったおかしが全て無くなっていて。

「あぁ、お帰りなさい」

当然のような笑顔で迎えるジェイドに「そこにあったお菓子知らないか?」と聞く。

「さきほど子供の大群が来ましてね。持っていかれてしまいました」

あぁ、あのルークも捕まったアニス筆頭のお化け集団だろう。
本を閉じながらジェイドがこちらを手招きする。だからジェイドの隣りに腰を降ろした。ベッドがぎしりといった。

「今日って一体何の日なんだ」
「今日は、ハロウィンですよ」
「ハロウィンって?」

ふむ、とあごに手を当てて考え込まれてしまった。
そしてアニスと同じような説明を受ける。世界的に有名な行事だと締めくくられては「んなの知らねーよ」とも言えず。そういうものかと納得した。
そして何故か肩にはどっしりとジェイドの腕が回されていた。

「それではルーク、どちらにしますか?」

そう突然たずねてきた。
よく分からなかったので「は?」と聞き返す。

「朝、私は聞いておきましたよね? お菓子と一緒に手紙をつけていたハズですけど」

あぁ、あの謎の手紙か。謎が溶けた。つまり、自分にお菓子をあげるかいたずらされるか選べという事だったのか。ん?

「それって子供が大人にやるんじゃねーの?逆じゃね?」
「ふふふ、こういうのはやったもん勝ちです」

なにやら不穏に笑ったジェイドが押し倒そうと肩に回した手腕に力を込めてきた。

「さぁ、どちらにしますか?」
「だって、お菓子持ってないし」
「わざわざ用意してあげたでしょう」
「んなの廊下に出たらみんな無くなったっての」
「それはそれは。この部屋にあったお菓子も持っていかれてしまいましたしねぇ」

どさっ。
力に負けて倒れこんでしまった。
ジェイドが上に乗ってきて手足を押さえつけられる。

「さて、じゃぁいたずらですかね」
「わーちょっと待った!!」

咄嗟に口の中でかなり小さくなっていた飴を思い出した。
舌の上に小さくなった飴を乗せて、ずぃっと差し出した。すごく恥ずかしいけれども。

「……」

一瞬呆気に取られていたジェイドだったが、次の瞬間吹き出していた。なんだよ、と思って舌を引っ込める。いたずらされないようにお菓子を出したのに、どうして笑われるのか。

「分かりましたよルーク。気合いを入れてお菓子、受け取りますね」

笑い終わったジェイドがニッコリと笑う。お菓子受け取ってくれるんだ。良かった。
いたずらされなくて済むんだ。
と思っていたら。キスをされて。小さくなった飴を二人で食べたとか。
結局昼食も食べられなかったとか。
ハロウィンは嫌いかもしれない。(だって結局いたずらされるんじゃないか)



END







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