『お風呂上りのあなた』
ごろごろごろ。
ベッドの上で転がる瞬間が一番暇なのかもしれない。
いつもやっている事だけれども、やっぱりこの瞬間のゴロゴロが一番暇なのかもしれない。
バスルームからはシャワーの音が聞こえてくる。部屋に入ったら一番に風呂。自分は泡風呂が好きだから体を洗った後はゆっくりバスタブに湯を張りながら、いい香りのするオイルと泡の元を入れる。それを溜まったお湯の中でかき回しながら鼻歌を歌って、体をゆっくりと沈める。
それが旅に出てからの宿での日課。当然、風呂に入っている時間も長くなるが、文句は言われた事が無かった。だから気にも留めなかったけど。
自分が一番じゃなくて相手が一番だと次に入るのは少し緊張するかもしれない。
でも、暇。
お風呂の香りがどんな香りになっているのか気になる。シャワーの後の泡がどの位残っているのか気になる。バスタブにお湯は張る方なんだろうか。それともお湯で体を流したら終わりにするタイプだろうか。
そんな事を考えつつ暇。
すごく緊張している、一番暇な時間。
もうすでに自分の風呂用の準備は出来上がっていて、あとは相手が上がるのを待つだけ。
ベッドの上で天井を見ながらぼんやりと思う。
ジェイドは風呂上りどんな香りをつけて上がって来るんだろう。やっぱりいつもの愛用の香水だろうか。それとも夜用のたまに香ってくる安心する香りだろうか。今日はどんな香りをつけてくるんだろう。
あぁ、そわそわする。
キュっとシャワーの止まる音がした。
続いて、タオルで体を拭く音。
なんだか動悸が早い。彼は眼鏡を外してくるだろうか。タオルを肩からかけて出てくるのだろうか。
どうしよう、緊張してきた。
そんな垣間に感じる、暇。
今、予備動作無しにバスルームの扉が開いたらきっと心臓が破裂してしまう。