『月』
風が吹いたから窓の外を見ると昼間だというのに、月が見えた。
夜とは違う、白い月が。
見た瞬間に彼を思い出してしまうのは、まだ忘れられないからだろうか。
『なんか、気持ち悪いよ』
彼は昼間の白い消えそうで消えない月を見てそう言っていた。自分自身を抱き締めるように腕で体を包んで震えながら、ルークは月を睨んでいた。
あの時は、その様子が昼間の月とだぶって見えたから抱き締めて消えないように包み込んだ。
いなくならないように。勝手に離れないように。大事に丁寧に。
そうしたら「有難う」と言って胸に顔をうずめてきたけれども。あの日のルークは何かを比喩するかのように、昼間の月を怖がっていた。理由なんて今更聞こえない。ルークは自分よりも遥かに月に近い位置に行ってしまったから。
戻ってきてくれと言ったけれども、ルークの微笑みは否定もしなければ肯定もしていなかった。
不確実な約束。
そういえば彼は約束を違える子だったろうか。いや、自分から約束した事を破ったことはない。使用人の躾が良かったのか約束を破るような子ではなかった。自分から約束した事に限って、それも自分が納得したことに限って。
だから、不安が襲う。
ルークの翡翠の瞳が薄く広がって青くなったような空に広がる譜石帯。その更に上に浮かんでいる昼間の月。
「今もあなたは、月を恐れていますか?」
あなたがいった空ではもっと違った色で見えるのでしょうか、昼間の月は。
窓のカーテンをざっと荒々しく閉めた。不安に思えて仕方が無い。
あなたを罵ってしまったルークを返してくれるか、不安になってしまう。
儚く、美しい夜の支配者よ。
あの子の安らぎを与え給え。
この世界に還すつもりが無いのなら。