『あなたの為に』
「さぁ出来たぞっ!」
そう言って出された料理はまともな色と香りをしていた。
全員の目はまだ疑っているが……。
「あんだよー、文句あるなら喰わなくていいんだぞ」
「いえ、今日はまともなので皆さんで驚いていただけですよー」
いつも何気なくしかし的確に嫌味をいう男はさらりといつもの笑顔だった。
誰のために作ったと思っているんだ。この料理。
「頂くわ、でもルークがカレーなんて珍しいわね」
ニンジンが入ってるのに自分から作り出すなんて珍しい。ルークにメニューを任せると自分の嫌いなものは一切入っていない料理を作るというのに……。
「ほーんと、っていうかーアニスちゃんが作ったカレーは絶対食べないくせに何事―?」
それぞれ言いたい事はあるのか小言を言いながら皿に盛り付ける。
ルークがじろりと睨みを効かせても効果は無い。というかむしろ状況を楽しんでいるらしい。
「それじゃ、いただきまーす」
全員で手を合わせて料理を食べる。恐る恐る、一口。
するとヴァっとガイが涙を流した。
「る、ルーク。お前がんばったんだなぁ」
一口食べただけでガイはおいおい泣き出した。
「どうしたの? すごい辛かった?」
横でまだスプーンを付けていないティアがガイを覗き込む。
「どれどれぇー?」
アニスがはむっと一口入れる。
「なんだ、普通に食べられるじゃん、ガイってば大袈裟だなぁ」
モグモグと口を動かし次から次へと口へ運ぶ。
「なんだよっ!だから文句あるなら喰うなっての!」
ルークが食べながら言う。その皿にはちゃっかりニンジンが乗っていないのだが誰も気に止めなかった。なぜなら、普通のカレーが出来上がっていたから。
ルークはみんながギャァギャァと騒いでいる中黙々と食べている男をちらりと見る。
本当は彼に好きなものを食べさせたくて作ったのだ。
「どう、かな?」
思わず聞いてみた。
すると彼はにっこりと笑って赤い目を細めた。
「アニスだったら落第点ですけど貴方だったら合格点ですよ」
「……」
最高と最低を比べられると素直に喜べない。
「もう少ししっかりと煮込まないと野菜の旨味が出ませんし、第一固すぎです。それから材料の大きさは統一させないと……」
「……うぅ」
カレー博士の演説にだんだんと自信を無くすルーク。
仲間に言われるでもなく、今日は大成功だったのだ。味見も何回もして、後戻り出来ない寸前一歩手前で済ませたというのに。
「でもですね」
ジェイドの手がルークの頭の上にポンと乗った。
えっとジェイドの顔を見ると、珍しい微笑み方をしていた。とても幸せそうな、微笑み。
「あなたが私のために作ってくれたのだとしたら、これ以上の旨味はありませんよ」
そう言って仲間の隙をついたキスはカレーの味がした。
最初からばれていたのかもしれない。メニューで。