「デートは待ち合わせから」
街角のオープンカフェでの待ち合わせ。アイスティーの氷も程よく溶けて(中身は半分以上飲んでしまっていたが)、ストローで掻き回すとカラカラと涼しげな音を立てた。相手はまだ来ない。
でも何だか心だけは浮かれていて、大通りで配っていてクーポンチケットにもう一度目を通した。何処に行ったら楽しめるだろうか。でも、二人でならどこでも楽しいのかもしれない。
午後の陽射しは穏やかで、木漏れ日が気持ち良い。街中の噴水もキラキラと小さな虹を作って人々を和ませていて。
時計を見ると待ち合わせ10分前を針が指していた。
今日は少しだけ早く来てみた。いつもは遅刻しがちだから今日は驚かせようと思って大分早めに来たけれども、これは予想外にはまるかもしれない。
「へへへ」
知らず知らずに笑いが漏れた。
いつ来るかな?
この場所で見つけてもらえるかな?
二人で行くならどこがいいかな?
不安と期待で胸が一杯だった。
「おや? お早いお着きですね」
あまりドキドキして相手の出現に気付かなかった。
え?っと聞きなれた声がするので見上げると柔らかく微笑む35歳。
何も言わずにテーブルの正面に座ってくれるのが嬉しい。いつもは自分がそうしているのだけれども、思った以上にやって貰えると嬉しい。
「珍しいですねぇ。まだ待ち合わせ時間前ですよ?」
「いっつもジェイド待たせてるからさ、たまにはこういうのもいいだろ」
気を利かせたウェイトレスがお冷ついでに注文を聞きに来る。それを片手で制すると、半分ほどに減っていたアイスティーを奪って一気に飲まれてしまう。
「随分待ったんですか?」
カランと残っていた氷がグラスの底に落ちて音を立てた。
「そんなに待ってないぜ」
レシートを持って立ち上がると彼も立ち上がって、逆にレシートを奪われてしまった。。
どうして?と見ると彼は「待たせた分の謝礼です」と笑うばかり。
「っつーか俺が勝手に待ってたんだから、俺が払うよ」
「ルーク、知らないんですか?」
ニコニコ楽しそうに彼が笑った。
「デートというのは待ち合わせの場所に向かう所から始まっているんですよ」
良い顔させて下さい。
そう言ってスタスタと先に歩いて行ってしまう。
手が出せなかった。しかし、なんと言うか……。
「かっこつけたがり屋だなー」
思わず苦笑。でもそこも好きなのかも知れない。これって惚れた弱みだろうか。
「じぇーいどっ!」
会計を済ませたジェイドの元にルークが走って行き、腕を絡ませる。「ん?」と驚いたような顔をするジェイドを見て、へへへと笑った。
「待ち合わせ、なるべく遅刻しないように気を付けるなっ!」
「何ですか唐突に?」
「いいんだって!」
こんなにウキウキして楽しい気持ちになれるのなら、ずっと待っていられる。こんなに体裁を保とうとしている珍しいジェイドが見れるなら、いつでも唐突に行動出来る。
「今日、どこ行こっか?」
「そうですねー」
それは木漏れ日の気持ちよい、爽やかな秋晴れの一日。