『心配させないで』


珍しい人物が倒れてた。
いつもみんな頼りきりだったし、彼も人間なわけで、いくら鍛えた身体を持っているからといって病魔に冒されない体をしているわけではないのだ。
しかし彼がいないと旅も中々進まないのが現状である。彼がいるのといないのとでは雲泥の差で出てしまう。

「辛くないか?」

自分から買って出た介護役。料理だって出来ないし、旅の準備をするにも値切りの仕方が甘いといわれ続けるルークは、せめて彼の手を握っていようと彼が目を覚ますまで看病し続けた。

「あなたが部屋から出ないのも珍しいですねぇ」

握った彼の手は熱い。熱が彼を溶かしてしまうんじゃないだろうかと、嫌な想像が脳内を駆け巡る。
早く、この熱が下がっていつものような冷たい手に戻って欲しい。

「うるせー、びょーにんは黙って寝てろ!」

余裕を見せるような軽口に半ば怒りつつ、彼の額に乗せてあったタオルを取って水の入った盆に浸す。
このタオルが彼の病魔を取り出して水で綺麗に流せたらいいのに。
キュッと固く絞って、それから一回タオルをほぐして、形を整えてからまた額に乗せてやる。以前、自分が倒れた時に彼がやってくれた事をそのまま返してやる。

「病人に優しい言葉をかけるのも看護の一つですよ」
「っっっっ! だったら急に倒れんな!」

抑えていた涙が溢れてきた。
このまま彼が起き上がらなかったらどうしよう。
握った手がどんどん熱くなって蒸発するように消えてしまったらどうしよう。
食事も取らないでやせ細って死んでしまったらどうしよう。
悪い予感ばかり膨らんで破裂する。今、この瞬間にも彼が死んでしまいそうで怖かった。

「ルーク?」

額のタオルがずり落ちないように手で押さえながら彼がベッドから身を起こした。涙を流しながら俯いてしまったルークの頬に手を添える。

「やれやれ、随分と心配をかけてしまいましたね」

単なる風邪なんですけどね。そう苦笑する彼の顔を直視出来なくて、ルークは唇を噛み締める。

「もう、無理するんじゃねーぞ」
「はい」
「看病だってしてやらないからな」
「はい」
「旅だって遅れるんだからな」
「はい」
「ジェイド」
「はい?」
「心臓が持たないから、これ以上心配させんな」

鼻ぐずっと鳴らして、見上げたその顔は。
やっと見あげる事の出来たその顔は柔らかく微笑んでいた。



END







戻る