『雨の休日』
珍しく、朝から雨が降っていた。
ざぁざぁざぁ……と止む事もなく昼過ぎまで振り続ける雨。本当は出発の日だったが連日の強行軍と翌日から快晴というスコアを聞いて一行はそのまま町でもう一泊する事にしていた。
それでも夕方近くにはやる事もなくなって、ルークとジェイドは宿の部屋で暇な時間をもてあましていた。
ルークは部屋の窓を全開にして、外を眺めている。
ジェイドは備え付けの椅子に座り、読みかけの本に静かに目を通している。
二人の間に流れる音は雨の音だけ。
ざあざあざあざあ。
「退屈、では無いですか?」
ジェイドが本から顔を上げてルークを見た。
ルークは窓から顔をそらしてジェイドを見る。
「別に?あ、気散った?俺いない方がいい?」
なにやら違う方に解釈されてしまう。
椅子から立ち上がるとルークの側に立ち、一緒に窓の方を向く。
「いつも賑やかな貴方が部屋で静かに過ごす…というのは誰でも興味持つと思いますよ?」
正直に「いつもと違いますね」と言ってやる。するとルークは頬を膨らませて、なんだよーと反論してくる。
「いつもは気にしてなかったんだけどさ、雨ってすげー綺麗な音してんのな!」
顔は不機嫌だが、声はやたら嬉しそうだった。
「雨の音…ですか」
「ざーって音だけかと思ってたんだけどさ、屋根に当たるとピチョンっていうし、傘に当たるとパラパラだし、水溜りに落ちるとトプンってするだろ?」
世紀の大発見だ!とばかりにルークの目が輝く。
「すげーじゃん!一個も同じ音って無いんだぜ?それを聞き分けようと思ってずっと音聞いてた!だから全然退屈じゃねーよ!」
「じゃぁ、かえって私が話し掛けた方がお邪魔でしたね。続きをどうぞ」
つんとしたジェイドがきびすを返す。
慌ててルークがジェイドを後ろから抱きしめる形で引き止める。
「どーしてそうなるんだ!ジェイドも一緒に聞こうぜ!」
腕をグイグイ引っ張ってジェイドを窓際に立たせる。
「……私は雨の音よりも貴方の声の方が好きなんですけどねぇ」
ジェイドがポツリと漏らす。
しかしそれはルークには伝わらなかったようで、ルークはまた窓の外を向いてしまう。
「ルーク」
呼びかけた。
ん?とルークがこちらを向いた瞬間に……。
そっと顎を押さえて唇を重ねた。
雨の音がまた二人の間に流れた。
しとしとしとしとしとしとしとしとしとしと。