『束縛の言葉』
先日、「何が欲しい?」と聞かれたので素直に「あなたです」とか答えてみたら顔面パンチをくらいそうになったので、回避して理由を尋ねると彼は真っ赤になってどこかに行ってしまった。やれやれ子供は駆け引きのやり方もぎこちない。
素直に相手に気持ちを表したいなら、言葉でも態度でも表せば伝わると思うのだ。増して自分相手ならば尚更。自意識過剰なくらい反応してやれるのに、彼はアレコレと考え付かない事をやらかしてくれる。
例えば大きなお世話だってあったりする。
「ジェイド!喰えよ!」
そう言って出された食事の量は半端なくて食べきれずにガイに手伝ってもらった事もあった。男の沽券としてどうかとも思ったが残すのも悪かったし、元使用人の彼も前に一度やられた事があるらしく何も言わずにルークが見ていない所で手伝ってくれた。
限度、という事言葉も認識できない彼を好きになったのは運命の皮肉か。
そんな一々一生懸命な彼を可愛いと思ってしまうのも、末期症状なのかもしれない。
だからこそ「何が欲しい?」で、素直に言ったというのに。
彼にはもっと分かりやすい言葉で言わないと分からないらしい。
「ルーク」
正面を横切ろうとしたルークを呼び止める。
彼はこちらが声を掛けると嬉しそうにパタパタと寄って来て、見えない尻尾をぱたつかせる。
あぁ、本当にコレが新婚夫婦の蜜月状態なんだろうか。自分の譜眼に何か間違った譜術でも刻んだだろうか。
「どうしたんだ、ジェイド」
ルークの瞳がキラキラと輝いている。
「ふふふ、この間の質問の補足ですよ」
とたんにバツの悪そうな顔をする彼。本当に素直だと感心する。そこがまた可愛いのだけれど。
居心地悪そうに俯く彼の耳元で呪文を唱える。
「これからもずっと側で笑っていてください」
私から離れないように、と。