『願い事』
「俺が願ってあげられるのはソレ位しか出来ないからさ」
そう言った事を酷く後悔していた。
どうして、もっと大切なことを言っておかなかったのか。もどかしい。
「そうですか……」
現に彼は何か言いたそうにして、でも何も言わず自分を抱きしめた。服越しの体温が心地良くて、背中にしがみつくように手を回したら、もっときつく抱いてくれた。
キスもしなかったけど、とても満たされた。
そして。
涙が止まらなかった。
体が実体を失って、自分と世界の境界線があやふやな状態でも見失わなかった。
果たしてこの感情自体どこか違う次元のものだったり、勝手な空想かもしれないと何度でも思った。
それでも彼の言葉を思い出す度に、まだ自分ははっきりと存在できていて世界の一部になったわけじゃないと実感できる。
だから、後悔している。
「ジェイドが幸せになる世界を願ってる」
彼は、あんなに淋しい顔をして笑っていたのに。
恐らく自分も上手に笑えていなかったのに。