『花畑の真ん中で』
「ジェイド!」
何事かと思うような勇ましい声がかけられた。
少し高めで、何か嬉しい事でもあったのかと思えるような聞き覚えのある赤毛の子の声。
「ジェイド、見ろよ!冠作ったんだ!」
タタル渓谷の奥地の崖に溢れんばかりに咲き誇るセレニアの花。
それが可愛らしく輪になっている。
天気も良くて、たまたま通りかかった昼下がりで一行は少し早めの休息を取る事になった。目的地であるケセドニアは砂と埃の町。誰も反対する事なく、アルビオールから降り立った。
食事が終り、ゆったりとした時間が流れると突然ルークが立ち上がり、ちょっと…と席を外した。
なにやら一同に背を向けて黙々と作業を始めたのだ。
それなのにいきなり「見ろよ」とは何だろうか?
呼びかけられたジェイド以外の面子も一斉にルークを振り返る。
「ほら、ジェイドにやる!」
嬉しそうに、得意そうにルークは笑い、ジェイドの頭にポスっと白い花の冠をのせる。
アニスとガイの苦笑が聞こえた。
「有難う、ござます。しかし…これは…」
突然の事にいつもの笑みが出せない。
「花…の冠ですよね?」
「あぁ!」
胸をそらして得意げになるルーク。
そこにガイがフォローを入れた。
「ルークは花の冠作るの得意なんだぜ、旦那」
「ルークったら作ってる最中、すっごいいい顔して作ってたんですよぅ、大佐」
アニスまでもふふふ〜と邪な笑みで。
やれやれとため息がこぼれた。
久し振りに意表を突かれた気がする。
「で、どうして私に?」
ジェイドの質問にルークの頬が赤く染まった。おかしな事は聞いてないし、別に照れる様な事でもない。
けれでも、ルークはまたジェイドの意表を突く。
「……似合うと思ったから」
ぼそり。
バツの悪そうな顔をして、ジェイドの視線から逃れる。
この死霊使いを捕まえて。
花の冠が似合うと思ってプレゼントした子。おそらく人類史上、最初で最後の存在かもしれない。
「似合う…ですか?」
ジェイドがちょっと困ったような顔をすると、ルークはへへへ…と笑う。
「なんだか、お姫様みたいだな〜」
そのルークの台詞にまたアニスとガイの噴出す声が聞こえた。
「お…姫様ですか…」
「容姿だけなー」
ニカっと笑うルークに悪意は無い。
もしかしたら自分がルークの行動に対応し切れてないだけかもしれない。だから一々驚くのかもしれない。
けれども突拍子が無い。
やれやれと癖で眼鏡の位置を整えた。
「姫なら姫らしく王子の手でも待ちましょうかね」
仲間が出立の準備を整えてるらしい。
笑っていたガイもアニスも忘れ物のチェックをしている。ミュウがニコニコとこちらに向かってきてるのも視界の隅に見える。
ジェイドに手を差し出すルーク。
「お手をどうぞ、姫」
気取ったつもりの笑顔も可愛らしくしか映らない。
差し出された手に軽くキスをする。
すると面白いようにルークの頬が赤くなった。
ジェイドがクスリと笑う。
「有難うございます、王子様」