『あおいろ』


そういえば、海でゆっくりした事ないよな。
そう言い出したのはルーク。
誰しも一度は行った事はあるし、ナタリアだってルークと幼い頃に一緒に行った事はあったが、それはアッシュの方であり今のルークではない。
ルークは「ゆっくりした事」はおろか、遊んだ事も海に触れた事もなかった。
丁度、良さそうな浜辺も見つけたところだったので、ノエルが気を利かせて「休憩にしましょうか」とアルビオールを降ろす。砂が機関に入り込まないようにと森の入り口にアルビオールが降り立つとナタリアの手に引っ張られて一番に外に出る。

「ちょ、ナタリア!ひっぱんなって!」
「ルーク!これが海ですわよ!」

幼い頃に何があったのか知らないがやっきになってルークを連れ出す。
ルークの目の前には青い大きな水が黄色い砂浜に白い泡を立てて寄せては引いていく世界だった。
水の上には空と眩しい太陽。
目がくらんだ。

「どうです?素晴らしいでしょう?」

ナタリアがルークを見る。

「あぁ、きれいだな。つーか、手ぇ離せよ」

ひっぱられたままだった手をぱしっと解くと、打ち際にしゃがんで水の温度を確かめる。
手に透かすと水は青くなく、それでいて、普通の水とは違う感じがした。

「舐めるとしょっぱいんですのよ」

しゃがんでいるルークの横でナタリアも手袋を外して水を触る。
言われた通り水を舐めると、口の中がしょっぱさよりも辛さが強く出る。

「うわ、口いてぇ!」
「ふふふ、アッシュと同じ反応しますのね」

どうやら幼い頃に同じ事をナタリアはやったらしい。アッシュで。
オリジナルとレプリカを同じように扱う女王に苦笑する。

「何だよ、同じ反応するか見てたのかよ」
「そんな事ありませんわ。たまたまです、たまたま」

しかしその顔は笑っていて、担いだようにしか見えない。

「ルーク。覚えていてくださいね。海の味は同じですわ。世界のどの海でも」
「? あぁ」
「例えば陸全てがヴァンによってレプリカ大地になろうとも海のレプリカは作り出せませんでしょうね」

ナタリアがポンポンと汚れてもいない服を払いながら立ち上がり、視線で追いかけてきたルークに笑いかける。

「人の気持ちだって、どこにいても同じですわ。嘘の気持ちなんて作りだせませんもの」
「ナタリア……」
「と、言ってあげてもよろしいんじゃなくて?大佐?」
「へ?ってジェイド?」

急に声の調子が変わったナタリアに驚いて振り返ると、そこにはジェイドが立っていた。
真後ろに立っていたのに気付かなかった自分が恥ずかしい。

「折角、いい雰囲気でしたのに。邪魔しないで下さいませ」

と言いつつもナタリアはそのまま仲間達の方へ歩いて行ってしまう。

「おやおや、これでも気を使っていたのですけれども」

肩をすくめる彼の顔は笑っていたが。
どうだか、とため息が出る。

「ジェイド…?」

どうしたんだ?と見るとジェイドが見つめてきた。太陽よりも眩しい眼差しで。

「ちょっと軽くヤキモチをやきましたからねぇ」

そしておもむろに手袋を外して肘まで袖をまくる。なんの事だか分からずにポカーンと見つめているルークの目の前で海に手を付ける。そして……

「うわ!つめた!!」

ピシャと勢い良くすくってルークの顔にかけてやる。
しかも一度でおわらずに何度もすくってなかけるのでルークもお返しとばかりに両手ですくってかけてやる。
そんな情景を見ていたティアとミュウ。
「ミュウ〜僕は泳げないですの……」
「濡れたら乾かすのが大変だし、ここで一緒に日向ぼっこしてればいいのよ」
「でもご主人様、楽しそうですの。僕も一緒に遊びたいですの」
「でも馬に蹴られると危ないから……」
「ミュウ?」
「恋路は邪魔しちゃ駄目って事よ」



END







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