『髪の色』


正直、自分の髪の色は余り好きではない。王家の血筋にしか出ないという赤の髪も劣化レプリカのせいか赤というよりはオレンジに近いし、叔父やアッシュの様な落ち着いたイメージよりは、はねっかえりな子供っぽい色なのが何よりの悩みだ。
実年齢が7歳なんだから子供といっては子供だが、外見17歳で生きてきた身としてはどうにかならないかと悩みの種である。

「ふてくされて、どうしました?」

陽の光りに透けると黄金に見えそうな亜麻色の髪を持ち、アッシュの髪の色よりもずっと紅く吸い込まれそうな瞳の男がルークの後ろから抱きつく。

「おわ!」

咄嗟の事だったので、思わずびくりと体が跳ねる。
それが面白かったのか、男はふふふと笑ってそのまま後ろから抱きしめる。

「あなたが考え事なんで気をとられているからですよ」

気配にも気付けないなんてよっぽどの重症ですねぇ、と嫌味を言ってくる。
別に考え事をしていなくとも彼ならば気配を隠して背後から近付いて何かやるには違いないのだが、実際に気付けなかったのはその通りなので反論が出来ない。

「で、どうしたんです?」

俯いて黙ってしまったルークにジェイドは尋ねる。

「別に大した事じゃねーんだけど……」

言いにくそうにゴニョゴニョと喋るルークに「ルーク」と少し温度の低い声で囁けば、照れで頬を染めながらはっきりと告げてくれた。

「髪の色……どうにかならないなぁと思って」

そのまま黙ってしまう。
ルークが髪の色で悩んでいるのは初耳だった。

「気に入らないのですか?綺麗な赤い髪だと思うんですが……」

ちょっと長めの襟足をいじりながらルークの反応をうかがうと、何も言わずコクンと頷くルーク。

「以前は長髪でしたし、好きだから伸ばしていたんだと思ってましたが?」

「あれは、母上が伸ばすようにって。成人の儀で断髪式ってのがあるからさ、それに備えて伸ばしてたんだ」

成人の儀で髪を切るという古い習慣がまだ残っていたのかと思う反面、納得もする。一見ボサボサに見えた髪も丁寧に手入れされて、寝る前などは一人でもきちんと三つ編みにして寝ている間に絡まないようにしていた記憶がある。

「でもさ、もう切っちまったし……だから余計に思うんだけど、この色明るすぎないか?」

背後にいるジェイドに振り返って尋ねる。
いい加減、遊ばれている襟足がくすぐったい。

「なんつーか、もっと叔父上とかアッシュみたいに落ち着いた赤だったら格好良いんだけどさ、子供っぽくね?」

耳から垂れている髪を一房つまんで見てみる。あぁ、この明るすぎる色が憎い。

「子供っぽいって……実際子供でしょう?」

嫌な所を突っ込んでくるジェイド。

「確かに実年齢7歳だけどさぁ……」

拗ねて横を向く。

「まぁ、年齢はともかく全く同じ色の髪を持つ人間なんていませんよ。無いものねだりは止めなさい」

澄ました顔で一般論を言うジェイドを憎らしげに見つめる。
ジェイドは涼しい顔でルークの視線を受け流すと、急にニコっと笑った。

「あぁ、髪の色を変化させる薬なら前に一度作りましたよ。催淫作用が強い、しかも色はランダムで決まる……というやつですけど」

どうします?
と意地悪な声で聞いてくる。どこまで本当なのか分からない話だが、いたずらされるのは決定である。それは嫌だ。

「んなのいらねーよ……」

ため息が漏れる。どうにかして自分で髪の色を濃くする方法を探した方が良い気がしてきた。

「それに」

ジェイドがルークを抱きしめたまま、ルークに聞こえないくらい小さな声で言う。

「折角私が気に入っているんですから、そのままでいて下さい」

そのまま暗闇を照らすような、明るい陽の色で。



END







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