『似たもの同士』
見つけたらとても欲しくなったので思わず買ってしまったが、どうも渡すタイミングが掴めない。二人きりになっても気まずいし、なにより二人きりの時などそうそう訪れない。
要は自分の心構え次第ではいつでも渡せる、という事なのだが……。
「どうしよう…」
ジェイドへと買ってしまったロケットペンダント。中には碧の石が入っている。それに対になるような形で自分には紅い石の入った同じデザインのペンダントを買って、既に身に着けている。どうにかして渡したい。
これまでにルークからジェイドへ手紙はおろかプレゼントも渡したことがない。ジェイドは自分が欲しいとは言っていないのに次から次へと細々とした物をルークに与える。綺麗な花が咲いていれば一つ摘んで持ってきて、街につけば日持ちのしそうなドロップやら砂糖菓子をくれる。そういえば前に日記を書くペンをなくしてしまった時に新しい物をくれた事もある。まるで子供の世話焼きのように感じて「止めてくれ」と言ったがジェイドはにっこり笑うと「私の楽しみを取らないで下さい」と耳にキスしながら囁いてきた。
その時は何が楽しいのか分からなかったが、いざ自分で思い立ってプレゼントを用意すると相手が喜ぶ反応とか身につけてくれた所とか考えるだけでワクワクした。
今度は自分が恩返しする番。どうかジェイドが受け取ってくれますようにと祈って再びいつ渡すか考え出す。
「いっそ今夜の宿でジェイドと同じ部屋にしてもらって……」
考えてる事が思わず口からでる。
幸い仲間達は遠くを歩っていて隊列のしんがりを守っているのは自分だから誰にも聞かれなかったとは思ったが……。
「今夜は私と同室で何をするつもりですか?」
余りにも考え事に集中していていつの間にか真横に立っていたジェイドに気付かなかった。
ルークの体がびくりとはねる。
「じぇ、ジェイド……」
思わず引きつった笑いが出てしまった。
あぁ、こんな予定ではなかったはずなのに……。
と、ジェイドがゴソゴソと懐に手を入れて何かを取り出そうとする。
「ルーク、ちょっと待っててくださいね」
懐で見つからなかったのかポケットに手を入れるジェイド。すると目的のものがあったのか「あぁ良かった」とポケットから小さな箱を取り出す。
「どうぞ、開けて下さい」
ジェイドがルークに小さな手のひらサイズの箱を手渡した。キョトンとするルークの手の上にしっかりと箱を載せてニコニコと行動を見守る。
「え、これって…ジェイド?」
「街角で見つけたものです。お気に召さなかったら、返して下さって結構ですよ」
柔らかく微笑んだジェイドに押されて手に載せられた箱を開ける。
するとペンダントが一つ入っていた。碧の石がシルバーの台座で輝いている。
「ジェイド?」
綺麗だなーと箱から取り出して光りに透かして、ニヘラと表情が緩んでしまう。
「あなたの瞳と同じものですよ。どうですか?」
ジェイドが手を差し出したのでペンダントを渡すとジェイドはルークの後ろに回りこんでペンダントをつけてあげる。
するとルークの首にもう一本別の鎖が見えた。
「ん? ルーク、あなたペンダントをしてますか?」
指で初めて見た鎖を遊ぶ。ルークがくすぐったそうに肩をすくめるので、調子に乗ってうなじを撫でる。ルークの反応が楽しい。
「ちょっ……それは…」
「ガイにでも貰ったんですか?」
ペンダントを服の上に出して後ろから覗き込んでロケットペンダントの中を見る。途端にルークが「あ、あのな!」と大声を出す。
え?と身体を離すとルークは自分のポケットの中から丁寧に包装された箱を取り出す。先ほどのジェイドの渡した箱よりは少し大きいが、矢張り手のひらサイズで小さい。
ルークが無言でジェイドに差し出す。何故かその顔は真っ赤で。
「どうしました? ルーク」
「やる」
ジェイドがつけたペンダントとロケットペンダントを鎖骨の辺りで揺らしながら乱暴にジェイドに箱を手渡す。
「開けますよ?」
くれるというなら開けなくては、と包装を取り箱を開けるとルークと同じデザインのロケットペンダントが出てくる。合わせ貝の様で中に何か入っている質量感があった。
パクリと開けると、そこには碧色の石が埋め込まれていた。
ぱっとルークの方を向くとルークは丁度自分のロケットペントを開けた所で中には紅い石が埋め込まれている。
「お揃い…の……その、いつもの……お礼」
語尾がだんだん小さくなっていくルークに自然と笑みが漏れた。
同じ事を考えていたのかと思うと可笑しくてたまらない。
ジェイドがクスクスと笑い出したのでルークの照れが爆発して逆に怒ったようにジェイドの手からペンダントを奪うとジェイドと同じように背後に回ってペンダントを服の下に付けようとする。
すると、何故か服の下にペンダントの鎖が光っていた。見つけたまま引っ張り出してみると、それは……紅い石がシルバーの台座に乗っていた。ルークがもらったものとデザインも同じもの。
「ジェイド…」
「似たもの同士っていうのはこういう時に使われるんですかねぇ」
やれやれと、一通り笑い終わったジェイドがため息をつく。でもそのため息も決していつもの嫌味なものではなくて、しょうがないというような呆れた様なものであった。
「今度、アクセサリー屋を見つけたら一つのペンダントにしてもらいましょうか」