『一番目』
「ご主人様はジェイドさんが好きですの?」
ルークを主人と慕うチーグルが野営での食事中に唐突に聞いてくる。
その瞬間にいた面子が一部を除き噴き出す。
「な、なななな…」
「好きですよね? ルーク」
わなわなと震えて答えられないルークにジェイドが極上の微笑みを向ける。
(この微笑みは一種の脅迫だろう)
そこにいる誰もがそう思った。
「ジェイドさんは、ご主人様が好きですの?」
大きい耳をピョコピョコ動かしながらミュウがジェイドに向き合う。
「えぇ、大好きですよ。少なくともミュウがルークを好きなくらいは平気で通り越して好きです」
「ぼくだって負けてませんの!」
ジェイドの一部邪悪な笑みと共に吐き出された言葉に対抗してか、赤くなってどうしようかと俯いてしまっているルークの膝の上にちょこんと移動して座る。
「ミュウはいいですねぇ…いつでもルークの膝の上に座れて……」
ため息をつきつつ、ルークを見ればジェイドの方を睨んでいる。
その他のメンバーがどんな顔をしているか気にもせずに続ける。
「たまにはルークも私の膝に……」
「わー!! わー!!」
何を焦っているのか(これは明らかに羞恥に耐えられないのと仲間に知られていいものかまだ彼の中で結論が出ていないのが要因だと思われる)、膝に座っているミュウの耳をブンブン遊びながらジェイドの言葉を遮る。
「なぁ、旦那。一応食事中だし、そういう話は後にしないか…?」
女性陣の舌打ちが聞こえそうなガイの華麗なコメントにジェイドは軽い笑みを持って回答する。
「やですねーガイ。ヤキモチは小学生までですよ」
何が何を持ってそうなるんだ!
しかし心当たりがありすぎる自分が情けなくて、しかも昼間立ち寄った森の川で沐浴したルークを見てちょっとトキメキが心に生まれてしまったような、それでも親友としての立場を崩したくなくて必死で思考をずらしているというに、どうして思い出させるようなこと言うんだこの鬼畜眼鏡軍人。
「で、ルーク。私の事好きですか?」
赤くなったり青くなったりを繰り返し挙句に「ごめん!ルーク!お前をそんな目で見てたわけじゃないんだ!断じて違うんだ!」と勝手に懺悔を始めたガイを放置してジェイドは話を線を元に戻す。
ティアが、アニスが、ナタリアが、ノエルが一斉にルークを見る。
どうやら気になっていたらしい。ティアに至っては目をランランと輝かせてルークの行動を余すことなく見ていた。それが睨んで蔑んでいる様な顔に見えるのは、彼女の真面目な印象の為だろう。
「お、俺は…」
「頑張って下さい、ルーク」
ナタリアが何か知っているような様子でルークを励ます。
ルークはちらりとナタリアを見て頷くと、ミュウを膝の上から下ろし、ジェイドを見る。
そのジェイドの後ろでガイが打ちひしがれている。
ミュウが「どっちが一番ですの?」という目で見てくる。
「俺は……ジェイドが好き…だと…………おも…う…」
最後の方が声が小さくなってよく聞き取れなかったが、キィワードを言った瞬間に何故か女性陣から拍手が起こった。そしてガイの吐血し倒れ込む姿。俺の精魂傾けて育てた子が眼鏡にさらわれた…という心の声が駄々漏れだった。
「はい。よく出来ました」
ご褒美といわんばかりのジェイドの先ほどとは違った笑みにつられてルークも微笑む。
その笑みに女性陣が安心したような微笑。
笑っていないのはガイだけ。
そしてミュウの一言。
「ご主人様は前、ジェイドさんの事『愛してる』って言ってたですの。一番『好き』なのは僕だって言ってくれたですの〜ミュ〜どっちですの〜?」
ガイ以外の全員の柔らかい笑い声が響いた。