『私だけのもの。』
珍しくジェイドよりも先に目が覚めた。
同じベッドで自分を抱きしめて眠っている彼はまだ目を覚ます気配が無い。いつもなら、赤い瞳で自分が目を開くのを見つめている彼のまぶたはしっかりと閉じている。
久し振りの宿だったのでお互いに無茶した所もあるが、それでも彼がまだ起きていないのが新鮮で、少しだけ楽しかった。
「起きねぇな…」
眼鏡を外すと分かる長いまつげ。
普段は左右に流して分けている目元まで延びている亜麻色の長い髪。
もぞもぞと布団の中から手を出して、その顔に触ってみる。
形の良い唇から寝息が漏れていて、たまたま掠った指先が痺れる感じがする。
柔らかい髪を撫でて、頬に手を当てる。温かい。
ふと、やたら恥ずかしい考えが浮かんで、どうしようか悩んでしまう。どうしようか、これだけしても起きないんだから見つからないかとは思うけれども……。
いたずら心が一人歩きする。
「…おきませんよーに」
ぼそりとお願いする。
そして首を精一杯伸ばして、ジェイドの唇に自分の唇を重ねた。触れるだけですぐに離れるが、どうしても恥ずかしい。見られてないと分かってても、恥ずかしい……と。
「それでお仕舞いですか?」
頭上から声。
はて?と赤面している顔を上げるとジェイドの真紅の目が開いていた。
「な…じぇ…」
顔の表面温度が一気に上がる。彼は寝ていたはずだった!
「ルーク?」
面白がる声が、ジェイドの胸にもたれるようにして顔を隠したルークの耳元に届く。
恥ずかしい。どうして彼がおきていたのに気付けなかったのか。いやいや、それよりも突発的な行動は避けるようにとガイに言われたのはこの事だったのか。違うって、だから別にキスしようと思ってたんじゃなくて!!
グルグル思考が回っていると、クスリと笑い声が漏れた。
「もっと寝ていた方が良かったですかね……」
恐る恐る顔を上げると目を細めてこちらを見ているジェイドがいる。
「ったりめーだ……」
なにやら後ろめたい思いでいっぱいで、声がどんどん小さくなる。
「まぁ、これで勘弁してください。お詫びですよ」
ふいにルークの腰を抱いていたジェイドの手が意味有りげにルークの背中をたどる。
びくりと反応して「あっ」と体がしなると、顎が上がって、そのタイミングを逃さないようにジェイドの唇が降ってきた。
こちらも触れる程度で離れていく。
「はい、ご馳走様です」
突然のキスで驚いているルークの頭をポンポンとたたく。
「な……」
「他の誰にもこんな事してはいけませんよ。あなたは私のものです」
さらに恥ずかしくて動けないルークの耳元に息をかけながらジェイドがにんまりと笑う。
「お前も……俺だけのものだからな!」
ルークの意趣返し的な攻撃でさえも彼は当然です。と微笑んでその顔がとても嬉しそうだった。
朝の小鳥がさえずった。
END
戻る