『まだ胸の鐘が鳴らない』
あなたに会う為にここまで来ましたと、今までの行動からは信じられない言葉を言った彼は、深夜で暗く視界が利かない時でも憎い程、格好良い。
かなりの無茶をしてきたのだろう。
少し乱れた髪と、よれたグローブ。
幼なじみの皇帝に頼めば正式な再会だって望めたのに、何故こんな非常識な……互いの身分を考えない行動に出たのか。
「あなたが愛しいんです」
開け放った窓から彼が身を踊らせて部屋の中へ入ってくる。まるで猫のように物音がない。
一歩下がれば、一歩詰め寄られて逃げ場というものが存在しない、あっという間に窓とは正反対の扉に追い詰められた。扉を開ければ、彼は侵入者として捕まる。
……ルークは開けていた扉の鍵を、閉めた。
彼を欲していたのは自分も同じ。離れて一月も立たないのに部屋で不貞腐れては厳しくも楽しかった旅を思い出していた。
力なく垂れたルークの腕は優しい手つきで掴まれる。
どことなく必死そうに、彼は呟いた。
「会いたかった、ルーク」
安堵のため息と共に、柔らかな蜂蜜色の髪が、ルークの右肩に触れた。