『虹』


空を見上げれば虹が出ていた。ルークは弾むようなリズムでジェイドの背中を追いかける。

「ジェイド、見ろよ!」
「ん? あぁ虹ですか?」

グランコクマ在住が長いジェイドは虹をあまり珍しがらない。街中に噴水が多く、光の屈折は見慣れているのだと言っていた。
対してルークにすれば、雨上がりに見れる奇跡の七色だ。小さい頃にガイに虹が見たいとねだり、庭の隅っこを水浸しにしてしまい父親にこってりと怒られた記憶がある。

「なぁ、あの虹の麓には何があると思う?」

小さい頃から、メイド達に聞いては困らせていた質問がルークの口先から再び発せられた。
ジェイドはキョトンとした後に、眉間に皺を寄せる。

「麓と言いましても水と光ですからねー屈折率が全く無い所とかそういう意味ですか?」
「ちっがーう!」

途端に難しい話をしようとしたジェイドの軍服の裾をルークが思いきり引っ張った。
そんな事ではないのだ。そんなつもりで聞いた訳では無いのに、この恋人は時折、こちらからすれば検討違いな反応を示す。

「違うって……じゃぁ何があるんですか?」

夢のある言葉を期待してはいけない相手だという事は分かっていたが、二人きり の時くらいは気を使って欲しい。
ジェイドの手をルークがギュッと握った。

「虹の麓には、虹の王様がいるんだぞ!」

ずるり。
盛大にジェイドの眼鏡がずれた。

「あなた本気で信じてるんですか? 流石、人生経験7年目ですね。色々と学ぶものが多いですよ」

新生物を見るようなジェイドの視線が失礼ではないかとルークは口をとがらせた。

「続きがあんだよ、続きが!」
「へぇ?」
「虹の王様は、気まぐれでさ。いつも虹を出してくれないんだ。虹が見れるのは王様の機嫌が良い時で、虹が見れた日は良い一日なんだって!」

ルークが言った続きとやはらは、絵本の中をそのまま切り取った様な話だった。

「だからな、機嫌の良い王様がどういう所に住んでるのかなーとか、思わね?」

そう言ってジェイドを見上げるルークの瞳はキラキラと輝いている。
思わないかと聞かれても今さっき聞いたばかりのお伽噺だ。人生経験7年目の彼に上手く感想が伝えられるはずもなく、ジェイドの唇がへの字になる。

「あ、また馬鹿にしたな!」
「いえ面白い発想だと思ったので」

科学者たるもの柔軟な発想をしなければとジェイドは眉間のしわを伸ばすように、手を当てた。
考えて考えて考えて、ようやく出た言葉は。

「中々、面白いんじゃないですか?」

凡庸スキルが盛大に発現した中身の無いコメントである。

「……」
「馬鹿にしている訳じゃありませんよ」

正直、信じられない。ルークのじとりとした瞳がジェイドを見つめた。
ジェイドはと言えば、向こう側を見て咳払い。

「俺もまだまだだなぁ」
「私もまだまだですね」

互いに呟いた言葉は何故か一致した。



END







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